「自分のPCXは大丈夫」――その根拠のない自信が、愛車を失う最大のリスクかもしれません。
統計データが示す通り、PCXはバイクの中でも特に盗難されやすい車種であり、その高い盗難率はもはや他人事とは言えないのが現実です。
なぜPCXは狙われるのか?
この記事では、その理由を深く掘り下げると共に、巧妙化する盗難手口、スマートキーの弱点を突く最新の犯罪、効果的な盗難防止アラームの選び方、そして最後の砦となる盗難保険まで、あなたのPCX盗難に関するあらゆる不安を解消し、具体的な解決策を提示します。
- PCXが盗難の標的にされる具体的な理由
- 明日から実践できる効果的な盗難防止策
- スマートキーの脆弱性とその正しい使い方
- 万が一の事態に備える盗難保険の選び方
PCX:盗難の現状と狙われる理由

- なぜPCXは盗難されやすいのか
- データで見る車種別の盗難率
- PCXが盗難されるのはなぜなのか
- 便利なスマートキーの意外な弱点
- バイクカバーで車種を特定させない
なぜPCXは盗難されやすいのか
PCXが盗難の標的として頻繁に選ばれてしまう主な理由は、その圧倒的な人気と市場価値の高さにあります。多くの人々に支持され、街中で頻繁に見かけるほどの人気車種であることは、裏を返せば窃盗犯にとっても「需要が高く、売却しやすい商品」であることを意味してしまうのです。
理由として、まず中古市場での高い需要が挙げられます。PCXは新車だけでなく中古車市場においても非常に活発に取引されており、年式が多少古くても安定した価格を維持しています。このため、窃盗犯は盗んだ車両を国内外の闇市場で容易に現金化できます。特に海外、とりわけ東南アジア市場では、信頼性の高い日本製の高品質なスクーターは一種のステータスシンボルとして扱われ、高級品として高値で取引される傾向が強いのです。
また、車両の絶対数が多いことも窃盗犯にとっては好都合な条件となります。街中を走るPCXの台数が非常に多いため、一台一台が人々の注意を引くことが少なく、盗難車であっても街の風景に紛れ込んでしまい、発覚するリスクが低いと窃盗犯は判断します。これは、四輪車で言えばプリウスやランドクルーザーが盗難されやすいのと同じ構図と言えるでしょう。
さらに、スクーターという手軽なイメージから、オーナー側の防犯意識が大型バイクに比べて相対的に低い場合があることも指摘されています。「短時間だから」「近所だから」といった油断から、施錠がハンドルロックのみで済まされてしまうなど、対策が不十分な車両が格好のターゲットとなるケースも少なくありません。これらの要因が複合的に絡み合い、PCXは窃盗犯にとって非常に魅力的なターゲットとなっているのが現状です。
データで見る車種別の盗難率

PCXがどれほど深刻な盗難の危険に晒されているかは、具体的なデータを見るとより一層明確になります。バイク盗難保険の専門会社であるZuttoRide Clubが定期的に発表している盗難被害の状況によると、PCXは排気量クラス別で常に盗難ランキングの上位に名を連ねており、極めて狙われやすい車種であることが客観的な事実として示されています。
具体的には、125cc以下のクラスでPCX125が盗難件数で堂々の1位、そして126cc以上のクラスにおいてもPCX150(現在は後継モデルのPCX160)が2位という、オーナーにとっては非常に憂慮すべき記録が報告されています。これは、数あるバイクの中からPCXシリーズがいかに窃盗犯から集中的に注目されているかを示す、動かぬ証拠と言えるでしょう。
| 125cc以下 | 126cc以上 |
| 1位 PCX125 | 1位 CB400SF |
| 2位 モンキー | 2位 PCX150 |
| 3位 ディオ | 3位 フォルツァ |
| 4位 エイプ50 | 4位 CBR250R |
| 5位 ジョルノ | 5位 CB400SB |
出典:ZuttoRide Club 『盗難被害の状況(2017年6月)』
さらに、乗り物全体の盗難という広い視点で見ると、バイクは自動車よりも遥かに盗まれやすい乗り物であるという厳しい現実があります。警察庁が発表している犯罪統計によれば、年間の新車出荷台数に対する盗難発生件数の割合(盗難率)は、バイクが自動車の約30倍近くに達するという衝撃的なデータも存在します。にもかかわらず、バイク窃盗の検挙率は20%以下と極めて低く、一度盗まれてしまうと、残念ながら愛車が手元に戻ってくる可能性は極めて低いのが実情です。
これらの客観的なデータは、PCXオーナーにとって盗難対策が単なる気休めや他人事ではなく、自身の財産を守るために所有者として真剣に取り組むべき、喫緊の課題であることを強く示唆しています。
PCXが盗難されるのはなぜなのか
前述の通り、PCXはその人気と換金性の高さから狙われやすい状況にありますが、窃盗犯が数あるバイクの中からPCXを積極的に盗む理由は、主に以下の3つの背景に集約されます。これらを理解することは、効果的な対策を講じる上での第一歩となります。
1. 圧倒的な流通台数とそれに伴う匿名性
PCXはスクータークラスにおいて、長年にわたり常にトップクラスの販売台数を誇ります。市場に出回っている絶対数が多いため、必然的に盗難の被害に遭う台数も多くなる傾向にあります。窃盗犯の視点から見れば、街に溢れていることで盗難車が人々の記憶に留まりにくく、街の風景に容易に溶け込んでしまうという「匿名性」の高さが、犯行後のリスクを低減させる要因となっています。
2. 根強い人気と高いリセールバリュー
人気の高さは、そのまま中古市場での価値の高さ、つまり高いリセールバリューに直結します。窃盗犯にとって、盗んだ後すぐに国内外のルートを通じて高値で売却できることは、犯行に及ぶ大きな動機となります。また、車両そのものだけでなく、パーツ単位に分解してインターネットオークションなどで販売されるケースも後を絶ちません。この場合、車体番号などから足がつくリスクが大幅に減るため、車両の特定はさらに困難を極めることになります。
3. 豪華装備と世界戦略車としてのグローバルな価値
PCXは、フルLEDの灯火類、静粛性に優れたアイドリングストップ機能、そして利便性の高いスマートキーといった豪華な装備を標準で備えており、同クラスの他のスクーターと比較して高価な部類に入ります。これが窃盗犯にとっての「商品価値」を高めています。さらに、PCXは日本国内だけでなく、世界中で販売される「世界戦略車」です。このため、海外での部品需要も非常に高く、特に経済成長が著しいアジア市場では高級バイクとして確固たる地位を築いています。このような背景から、不正に輸出されても十分に利益が出てしまうという国際的な犯罪の温床にもなっているのです。
このように、PCXは国内での人気、海外での需要、そして車両自体の価値という複数の側面から、窃盗犯にとって「リスクが低くリターンが大きい、割の良い仕事」と見なされてしまっているのです。
便利なスマートキーの意外な弱点

近年のPCXに標準装備されているスマートキーは、キー本体をポケットやバッグに入れたまま、バイクに近づくだけでエンジンの始動ができる、非常に利便性の高い機能です。しかし、この快適な機能性の裏側には、「リレーアタック」と呼ばれる巧妙な盗難手口に対する脆弱性が潜んでいます。この弱点を理解していないと、知らず知らずのうちに愛車を危険に晒すことになりかねません。
リレーアタックとは、スマートキーが常時発している微弱な電波を、特殊な受信機器で傍受し、それを別の増幅器へと中継(リレー)することで、あたかも正規のキーがバイクのすぐ近くにあるかのように車両のシステムを誤認させてしまう手口です。これにより、犯人は物理的にキーを破壊したり、配線を切断して直結したりすることなく、スマートにロックを解除し、エンジンを始動させて盗み出してしまいます。
この犯行は通常、複数人で行われます。一人がターゲットのオーナーに近づき(例えば、オーナーが自宅の玄関先にキーを置いている場合や、カフェでくつろいでいる場合など)、特殊な機器でキーの電波を受信します。そして、その電波をバイクの近くで待機しているもう一人の仲間が持つ増幅器に送信し、車両を操作するのです。この手口の最も厄介な点は、犯行が極めて短時間で、かつ静かに行われるため、周囲に気づかれにくいという点にあります。
リレーアタックへの極めて有効な対策
幸いなことに、PCXのスマートキーには、このリレーアタックを根本的に防ぐための非常に有効な機能が備わっています。それは、スマートキー本体の電源をオフにする機能です。バイクから離れて駐車する際には、必ずスマートキー本体のボタンを長押しして、電源を完全にオフにする習慣をつけましょう。電源をオフにすることで、キーからの電波の発信が物理的に停止するため、窃盗犯がどれだけ高性能な機器を使っても電波を傍受すること自体が不可能になります。
自動車のスマートキーに慣れていると、つい電源を切る操作を忘れがちですが、この一手間が愛車を守る上で決定的な防御策となります。乗車時以外は電源オフ、これを徹底することが大切です。
バイクカバーで車種を特定させない

物理的なロックによる施錠と並行して、ぜひ実践したいのがバイクカバーの使用です。これは手軽でありながら、非常に高い防犯効果を期待できる対策の一つです。バイクカバーを掛ける目的は、単に雨風や紫外線、ホコリなどから車体を守り、劣化を防ぐという物理的な保護だけではありません。窃盗犯に対する強力な心理的防御策としても大きな意味を持つのです。
組織的な窃盗団の多くは、衝動的に犯行に及ぶのではなく、事前に綿密な下見を行い、ターゲットとなる車種やその保管状況、周辺環境などを入念にチェックします。バイクカバーで車体全体を覆ってしまうことで、まず「そこにどんなバイクが停まっているのか」という最も基本的な情報を外部から遮断できます。窃盗犯は効率を重視するため、わざわざカバーをめくってまで車種を確認するという手間とリスクを嫌う傾向があります。特にPCXのような特定の車種を狙っている犯人に対しては、車種を特定させないことが第一のバリアとなるのです。
また、きちんとカバーが掛けられているバイクは、「オーナーが車両を大切に管理している」という無言のメッセージを発します。これは、犯人に対して「このバイクには、他にも厳重な防犯対策が施されている可能性が高い」と警戒させる効果があります。これにより、心理的なプレッシャーを与え、犯行のターゲットから外させる抑止効果が期待できるでしょう。
さらに、実際に盗むという段階においても、カバーを外すという一手間が加わるため、犯行にかかる時間と手間を増大させられます。カバーを外す際には、どうしてもガサガサという音が発生し、これが人目につくリスク、発覚のリスクを高める要因となることも、犯人にとっては大きなマイナスポイントです。
カバーを選ぶ際は、必ずしも高価なものである必要はありません。むしろ、メーカーのロゴが入った純正品などは、かえって中のバイクが高価であることをアピールしてしまう可能性もあります。車体のシルエットが分かりにくく、夜間に目立たない黒などのダーク系の色のカバーを選ぶのがおすすめです。
愛車を守るためのPCX盗難対策

- 複数の盗難防止対策を組み合わせる
- 効果的なロックと地球ロックの方法
- 音で犯人を威嚇する盗難防止アラーム
- GPSで盗難後の追跡を可能に
- 万が一に備えるバイク盗難保険
- レンタルコンテナでの保管も有効
複数の盗難防止対策を組み合わせる
愛車のPCXを窃盗犯の魔の手から守るためには、単一の対策に依存するのではなく、性質の異なる複数の盗難防止対策を戦略的に組み合わせて、多層的な防御壁(レイヤードセキュリティ)を構築することが最も重要です。投資の世界には「すべての卵を一つの籠に盛るな」という有名な格言がありますが、これはリスク分散の重要性を説くものであり、バイクの防犯対策にもそのまま通じる考え方です。
例えば、どれだけ高価で頑丈なチェーンロックを一つだけ付けていても、それを破壊する専用の工具(例:大型の油圧カッター)を用意してくるプロの窃盗団の前では、時間の問題でしかありません。しかし、その頑丈なロックに加えて、車種を隠すバイクカバー、異常を検知して大音量を放つアラーム、そして万が一盗まれた後も追跡が可能なGPSといった、異なる種類の対策が幾重にも施されていたらどうでしょうか。犯行にかかる手間と時間は飛躍的に増大し、それに伴って発覚するリスクも格段に高まります。
窃盗犯の心理として、最も避けたいのは「時間がかかること」と「人目につくこと」です。そのため、「このバイクを盗むのは面倒そうだ」「リスクが高すぎる」と犯行の初期段階で感じさせることができれば、ターゲットから外させる可能性を大幅に高めることができるのです。
具体的な組み合わせとしては、以下の5つの要素を、ご自身の予算や保管環境に応じてバランス良く導入することを基本に考えると良いでしょう。
| 対策の種類 | 目的と効果 |
| バイクカバー | 視覚的防御。車種を隠し、下見の段階でターゲットから外させる。 |
| 物理ロック | 物理的防御。切断に時間がかかる頑丈なものを複数使用し、時間稼ぎをする。 |
| アラーム | 聴覚的・心理的防御。振動や傾きを検知し、大音量で犯人を威嚇・撃退する。 |
| GPSトラッカー | 追跡・回収。万が一盗まれた際に、車両の位置情報を特定し、回収の可能性を高める。 |
| 盗難保険 | 経済的防御。最終的な金銭的被害を補填し、再購入などの負担を軽減する。 |
これらの対策を一つでも多く、そして効果的に組み合わせることが、あなたのPCXを守るための最も確実な道筋となります。
効果的なロックと地球ロックの方法

バイクの盗難対策における最も基本的かつ物理的な防御策が、ロックによる施錠です。しかし、ただロックを掛ければ良いというわけではありません。その質と方法が、防犯性能を大きく左右します。まず大前提として、新車時に備わっているハンドルロックだけでは、プロの窃盗犯にかかれば数秒で破壊されてしまうため、防犯効果は無いものと考えるべきです。必ず、頑丈な追加のロックを最低でも2つ以上使用することを強く推奨します。
ロックの種類と特徴
市販されているロックには、U字ロック、チェーンロック、ワイヤーロック、ディスクロックなど、様々な種類があります。それぞれに強度や重量、携帯性などの面でメリット・デメリットが存在しますが、選ぶ際の基本は「切断に時間がかかる、ゴツくて頑丈なもの」です。窃盗犯は、音の静かな油圧カッターや、電動のディスクグラインダーといった強力な切断工具を使用します。そのため、ホームセンターなどで安価に販売されている細いワイヤーロックなどは、残念ながら気休めにしかなりません。焼き入れ処理が施された特殊合金鋼など、素材にもこだわった信頼性の高い製品を選びましょう。
最強の施錠方法「地球ロック」
そして、どのような高性能なロックを使用する上でも、最も重要なのが「地球ロック」を実践することです。地球ロックとは、バイクのフレームやホイールといった強度のある部分を、地面に固定された動かせない構造物(ガードレール、標識の支柱、頑丈なフェンスの柱など)と一緒にロックする方法を指します。
なぜなら、どれだけ強力なロックをバイクの車輪だけに付けても、複数人の窃-と犯にかかれば、バイクごと持ち上げられてトラックなどに積載されてしまえば、全く意味がなくなってしまうからです。重さが130kg程度のPCXは、成人男性2〜3人であれば十分に持ち上げることが可能です。地球ロックを施すことで、この「持ち去り盗難」そのものを防ぐことができます。
自宅の駐輪場に地球ロックに適した固定物がない場合は、専門業者に依頼して地面にコンクリートで固定するタイプのグラウンドアンカーを設置することも、非常に有効な手段です。ツーリング先などでも、駐車する際には常に地球ロックができる場所を探す癖をつけることが大切です。手間を惜しまず、この地球ロックを毎回行うことが、最も確実性の高い物理的防御策となるのです。
音で犯人を威嚇する盗難防止アラーム

窃盗犯が犯行現場で最も嫌うもの、それは自身の存在を周囲に知らせてしまう「音」と「光」です。人知れず、静かに、そして迅速に犯行を終えたい彼らにとって、予期せぬ大音量は最大のリスクとなります。そのため、異常を検知して警告音を発する防犯アラームの設置は、犯人を心理的に追い詰め、犯行を断念させる上で非常に効果的な対策となります。
防犯アラームは、内蔵されたセンサーが車体への振動や不審な傾きを検知すると、100デシベルを超える大音量の警告音(救急車のサイレンに匹敵する音量)を発し、犯人を強く威嚇します。この音により、犯人はパニックに陥り、その場から逃走する可能性が高まります。また、周囲の住民や通行人に異常を知らせる効果も期待できます。
製品には、バイクのバッテリーに配線を接続してシート下などに設置する本格的なイモビライザーアラームから、ブレーキディスクに取り付けるだけで機能する、アラーム機能が内蔵されたディスクロックまで、様々なタイプが存在します。
アラーム選びで最も重視すべきポイント
アラームを選ぶ際に、価格や取り付けの手軽さ以上に注意したいのが、搭載されているセンサーの種類です。安価な製品の多くに採用されている単なる「振動センサー」は、感度が高すぎると、強風でバイクカバーが激しく揺れたり、近くを大型トラックが通過したりした際の地面の揺れにまで反応し、誤作動を起こすことがあります。頻繁な誤作動は、単に近所迷惑になるだけでなく、本当に異常があった際に「またオオカミ少年か」と周囲から見過ごされてしまう危険性もはらんでいます。
そこでおすすめなのが、「傾斜センサー」を搭載したモデルです。傾斜センサーは、単なる微振動ではなく、サイドスタンドが払われたり、車体が明らかに垂直方向から動かされたりといった、「盗難に繋がる明確な動き」を検知して初めて作動するため、誤作動の頻度が格段に少なくなります。これにより、信頼性の高い監視が可能となります。
音による威嚇は、特に人通りが少なくなる夜間の住宅街などでは絶大な効果を発揮します。前述の物理ロックと組み合わせることで、より強固で突破されにくいセキュリティ体制を構築できるでしょう。
GPSで盗難後の追跡を可能に

ここまでに解説してきた対策は、あくまで盗難を未然に防ぐための「予防策」です。しかし、相手が工具や知識を豊富に備えたプロの窃盗団であった場合、残念ながら100%盗難を防ぎきることは難しいという厳しい現実も直視しなければなりません。そこで、万が一、最悪の事態が発生してしまった後の「追跡・回収策」として、最後の希望となるのがGPSトラッカーの設置です。
GPSトラッカーは、衛星からの電波を利用して、デバイスの現在位置を高い精度で特定する装置です。これをバイクのシート下やカウルの内部など、犯人に発見されにくい場所に巧妙に隠して仕込んでおくことで、盗難された愛車の行方を手元のスマートフォンなどからリアルタイムで追跡し、警察と連携して発見・確保に繋げる可能性を飛躍的に高めることができます。
多様化するGPSトラッカーの種類と選び方
かつては、専門の警備会社との契約が必要で、月額費用も高額なものが主流でしたが、テクノロジーの進化に伴い、近年ではより手軽で多様な選択肢が登場しています。
- Apple AirTagの活用:iPhoneユーザーであれば、Appleの紛失防止タグ「AirTag」が非常に有力な選択肢となります。コイン程度の大きさで設置場所に困らず、バッテリーも市販のボタン電池で1年以上持続し、何より月額費用がかからないのが最大の魅力です。厳密にはGPSではありませんが、世界中に存在する数億台のiPhoneやiPadなどのAppleデバイスのネットワークを匿名で利用して位置を特定する仕組みで、特に人や車の往来が多い都市部では、GPSに匹敵する高い精度での追跡が期待できます。
- 専用GPSトラッカー:月額数百円程度の費用はかかりますが、より高機能でリアルタイム性の高い正確な追跡が可能な専用品も多数販売されています。リアルタイムでの追跡精度はもちろんのこと、設定した特定のエリア(例えば自宅の駐車場)からバイクが出た際に即座にスマートフォンに通知を送る「ジオフェンス機能」や、過去の移動履歴を記録する機能など、バイクの盗難対策に特化した便利な機能を備えた製品も存在します。
GPSは盗難を直接防ぐものではありません。しかし、警察が捜査に着手する際の極めて有力な物証となり、愛車を取り戻すための最後の切り札となり得る、重要な投資と言えるでしょう。
万が一に備えるバイク盗難保険

あらゆる物理的・電子的対策を講じても、残念ながら盗難のリスクを完全にゼロにすることはできません。そして、一度盗まれてしまった場合、バイクが無傷の状態で発見される可能性は極めて低く、多くは無残な姿で見つかるか、あるいは二度と戻ってこないのが現実です。特に、購入したばかりのバイクや、ローンが残っているバイクが盗まれた場合、車両がないにもかかわらずローンの支払いだけが続くという、精神的にも経済的にも非常に辛い状況に陥ってしまいます。その最後のセーフティネット、最終的な心の拠り所となるのが、バイク盗難保険への加入です。
盗難保険に加入していれば、万が一愛車が盗難の被害に遭っても、保険金によって新しいバイクの購入費用や、残ったローンの支払いといった金銭的な損害を補填することができます。もちろん、愛車を失った深い悲しみや、共に過ごした思い出が金銭で癒えるわけではありません。しかし、少なくとも経済的な打撃を大幅に軽減し、次のバイクライフへと踏み出すための大きな助けとなってくれることは間違いありません。
信頼できる盗難保険の選び方
バイクを専門に対象とした盗難保険は、自動車保険の特約などを含めていくつか選択肢がありますが、その中でも代表的な存在が「ZuttoRide Club」です。この保険は、国内の主要バイクメーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)が提供する純正の盗難保険の引受元にもなっており、その実績と信頼性の高さが大きな特徴です。
保険料は、補償される金額の上限や、車両の市場価値によって変動しますが、PCXの場合、プランによっては年間1万円台から加入が可能です。これを月々に換算すれば、わずか千円程度の負担で、車両価格に相当する数十万円の補償を得られることを考えると、非常にコストパフォーマンスの高い「安心への投資」と言えるでしょう。
特に、高価なカスタムを施しているバイクや、前述の通りローンで購入したバイクのオーナーにとっては、盗難保険はもはやオプションではなく、必須の備えと考えるべきです。
レンタルコンテナでの保管も有効

これまで紹介してきた対策は、主に屋外の駐輪場に保管することを前提としています。しかし、もしご自宅の駐輪環境そのものに不安がある場合、例えば、誰でも簡単に出入りできる集合住宅の駐輪場や、人通りの少ない路地に面した場所などでは、より抜本的な解決策としてレンタルコンテナの活用が極めて有効な選択肢となります。これは、月額料金を支払って、バイクを保管するための専用の個室スペースを借りるという方法です。
この方法の最大のメリットは、その圧倒的な防犯性の高さにあります。厚い鋼鉄製の壁で四方を囲まれたコンテナと、利用者が持つ頑丈な鍵によって、窃盗犯がバイクに近づくこと自体を物理的にほぼ不可能にします。多くのコンテナヤードでは、さらに防犯カメラや夜間照明、関係者以外の立ち入りを制限するゲートなども設置されており、セキュリティレベルは一般的な屋外駐車場とは比較になりません。
また、副次的なメリットとして、雨風や直射日光、砂埃などから車両を完全に保護できるため、バイクの塗装や金属部分の劣化を最小限に抑え、愛車を常に綺麗な状態で長く保てるという利点もあります。
もちろん、デメリットも存在します。最も大きいのは、月々数千円から一万円程度の維持費が継続的にかかることです。また、自宅からコンテナの設置場所まで距離がある場合は、バイクに乗るたびにそこまで移動する必要があり、利便性が損なわれる可能性もあります。
しかし、複数の高性能なロックや高価なバイクカバーを揃える費用、そして何よりも、愛車が盗まれるかもしれないという日々の不安や、実際に盗難に遭った際の計り知れない精神的苦痛と経済的損失を天秤にかければ、決して高すぎる投資ではないと考えることもできるでしょう。特に、セキュリティに不安のある環境にバイクを置かざるを得ない場合には、最も確実で安心できる保管方法として、真剣に検討する価値が十分にある選択肢です。
まとめ:総合的なPCX 盗難対策を
ここまで解説してきたように、PCXの盗難は決して他人事ではありません。しかし、正しい知識を持って複数の対策を組み合わせることで、そのリスクを大幅に低減させることが可能です。最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- PCXは人気と価値の高さから盗難の標的になりやすい
- 125cc以下のクラスでは盗難件数1位というデータがある
- バイクの盗難率は自動車と比較して非常に高い
- 窃盗犯の主な目的は換金性の高い車両の転売である
- 単一の対策ではなく複数の防犯対策を組み合わせることが最も効果的
- バイクカバーは車種の特定を防ぐ第一の防御線となる
- 物理ロックは頑丈なものを2つ以上使用することが基本
- 車両の持ち去りを防ぐ「地球ロック」は必須の対策
- スマートキーは電源オフを習慣化しリレーアタックを防ぐ
- 防犯アラームは音による威嚇で犯行を断念させる効果が期待できる
- 傾斜センサー付きのアラームは誤作動が少なくおすすめ
- GPSトラッカーは盗難後の追跡と発見に役立つ
- 万が一の経済的損害に備えバイク盗難保険への加入を検討する
- 自宅の駐輪環境に不安があればレンタルコンテナの活用も有効な手段
- 「盗むのに手間と時間がかかり、リスクが高い」と窃盗犯に思わせることが重要
