ホンダPCX160。街乗りでの快適さとキビキビとした走りは、まさに「クラスの王者」と呼ぶにふさわしいもの。
しかし、あなたが本当に知りたいのは、その実力が高速道路という新たなステージでどこまで通用するのか、ではないでしょうか?
「PCX160の最高速は一体どれくらい出るのか?」「追い越し車線の流れにスムーズに乗れる?」「高速道路を使った長距離ツーリングは本当に快適?」――そんな期待と少しの不安が入り混じるあなたの疑問に、この記事が真正面からお答えします。
巷にあふれる曖昧な情報ではなく、信頼性の高い実測データに基づいた最高速を明らかにするとともに、性能の鍵を握るリミッターの真実や、走りの質を高めるカスタム術、そして「燃費が悪い」「高速は怖い」といった噂の真相にも鋭く切り込みます。
この記事を読み終える頃には、PCX160との付き合い方がより明確になり、あなたのバイクライフがもっと豊かになるヒントがきっと見つかるはずです。
- PCX160の最高速に関する実際の数値とその変動要因
- リミッター解除の可否や現実的なパフォーマンス向上のためのカスタム手法
- 高速道路走行時におけるPCX160の挙動、安定性、そして潜在的な注意点
- 日々の維持費に直結する燃費性能と、最大のライバル車種との詳細な比較
PCX160の最高速は?基本性能を徹底解説

このセクションでは、PCX160のパフォーマンスの根幹をなす最高速の基本情報から、その性能に影響を与える技術的な側面、そしてライバルとの比較まで、多角的に解説していきます。
- PCX160の最高速の実測値は?
- 最高速に影響するリミッターの存在
- さらなる最高速アップを目指すには
- 走行性能を向上させるカスタムとは
- PCX160は燃費悪いという評価の真相
- ライバルNMAX155との性能比較
PCX160の最高速の実測値は?
PCX160が一体どれほどのトップスピードを秘めているのか、これは購入を検討する上で最も直接的な疑問点であり、非常に重要な判断材料となります。
様々なメディアや個人ユーザーによる検証結果を総合すると、PCX160の最高速は、メーターパネルに表示される数値で時速110kmから115km前後、そしてより誤差の少ないGPSデバイス等で計測した実測値としては時速105kmから110km前後というのが、最も信頼性の高いアベレージです。
このメーター表示と実測値の間に見られる5%前後の差は「ハッピーメーター」とも呼ばれ、実際の速度よりやや高めに表示される多くの市販バイクに共通する傾向です。
もちろん、この数値はあくまで理想的な条件下での基準値となります。
実際の公道では、ライダーの体重やライディングフォーム、積載している荷物の有無といった要素が大きく影響します。
例えば、体重60kgのライダーと80kgのライダーとでは、最高速に数km/hの差が生じることもあります。
さらに、緩やかな下り坂で追い風を受けるといった好条件が重なれば、メーター読みで120km/hを超えるケースも報告されていますが、逆に厳しい向かい風や登坂区間では、アクセルを全開にしても100km/hに届かないという状況も十分に考えられます。
重要なのは、PCX160が最高速の記録更新を目的としたスーパースポーツバイクではなく、日常的な移動における快適性、経済性、そして扱いやすさを最優先に設計されたプレミアムスクーターであるという点です。
そのため、高速域で後頭部をシートに押し付けられるような爆発的な加速性能は持ち合わせていません。
しかし、日本の高速道路における法定速度(新東名など一部区間を除く)内での巡航であれば、エンジンに過度な負担をかけることなく、安定して走り続けることが可能な十分な性能を有していると言えます。
最高速に影響するリミッターの存在
バイクのパフォーマンス、特に最高速を語る上で避けて通れないのが「リミッター」という言葉です。
リミッターを解除すれば、バイクはもっと速くなる、と考える方も少なくありません。
まず明確にしておくべきは、PCX160には、特定の速度(例えば120km/h)に達すると強制的に燃料供給をカットしたり点火を止めたりするような、一般的にイメージされる「スピードリミッター」は搭載されていないということです。
PCX160の最高速を事実上決定しているのは、2つの異なる要素です。
一つは、エンジンの回転数が許容範囲の上限に達した際にそれ以上回転数が上がらないように制御する「レブリミッター(回転数リミッター)」。
もう一つは、エンジンパワーを後輪に伝える無段変速機(CVT)のプーリーとベルトが、構造上それ以上は変速できないという物理的な限界です。
つまり、エンジン回転数がレブリミッターの作動ポイントに到達するか、あるいは駆動系が変速の限界を迎えるか、どちらか早い方のタイミングで最高速が頭打ちになる、という仕組みです。
このレブリミッターは、エンジン内部のピストンやバルブといった精密部品を過回転によるダメージから保護し、バイクの寿命と信頼性を確保するために不可欠な安全装置です。
そのため、俗に言う「リミッターカット」とは、このECU(エンジン・コントロール・ユニット)による回転数制御に外部から介入し、上限値を引き上げる、あるいは撤廃することを指します。
しかし、現行モデルのPCX160(型式:KF47)は電子制御がより高度化・複雑化しており、ECUに接続するだけで簡単にレブリミッターを解除できるような市販のコントローラーは存在しないのが現状です。
仮に専門的な知識を持つショップがECUのマップを直接書き換えるなどの手法を用いたとしても、エンジンに想定以上の負荷がかかり、ピストンやクランクシャフトの破損、エンジンオイルの異常な劣化、冷却性能の限界超過といった深刻なトラブルを引き起こすリスクが飛躍的に高まります。
加えて、このような改造はメーカーの正規保証を完全に失う行為となるため、得られるわずかな速度向上というメリットに対して、デメリットがあまりにも大きいと言わざるを得ません。
さらなる最高速アップを目指すには
前述の通り、ECUの制御に介入するようなリミッター解除による安易な最高速アップは、PCX160においては非現実的かつハイリスクです。
では、愛車のポテンシャルを最大限に引き出し、新車時に近いパフォーマンスを維持、あるいはコンディションを向上させるためには、どのようなアプローチが考えられるのでしょうか。
最も現実的で、かつ全てのオーナーにとって有益な方法は、スクーターの心臓部とも言える「駆動系」の定期的なメンテナンスとリフレッシュです。
エンジンの動力を後輪に伝える駆動系は、Vベルト、ウェイトローラー、スライドピースといった複数の消耗部品で構成されています。
- Vベルト: 走行距離に応じて伸びや摩耗が進行し、パワー伝達のロスに繋がります。
- ウェイトローラー: 遠心力で移動することで変速比をコントロールする重要なパーツですが、回転しながら動くため偏摩耗を起こしやすい部品です。
- スライドピース: プーリーの動きを支える樹脂パーツで、摩耗すると異音や変速のスムーズさを損なう原因になります。
これらの部品が劣化・摩耗すると、エンジンのパワーを効率よく後輪に伝えられなくなり、発進や中間加速が鈍くなるだけでなく、最高速が伸び悩む直接的な原因となります。
一般的に、多くのメーカーや専門店では走行距離が20,000kmに達するごとに、これらの駆動系パーツを一式で交換することを推奨しています。
消耗したパーツを新品に交換し、同時にクラッチシューのダストを清掃するなどのメンテナンスを行うことで、駆動系は新車時に近いパフォーマンスを取り戻します。
これにより、エンジンが生み出すパワーをロスなく路面に伝え、バイクが本来持っている最高速性能を再びしっかりと発揮できるようになるのです。
これは記録を更新するようなチューニングではなく、バイクの健康を維持するための「レストア(復元)」に近い考え方ですが、最高のコンディションを保つ上で最も重要な作業となります。
走行性能を向上させるカスタムとは
最高速の数値を劇的に引き上げるのは難易度が高い一方で、走行全体の質感を高め、ライダーの満足度を向上させるためのカスタムパーツは豊富に存在します。
これらのカスタムは、最高速への到達時間を短縮したり、高速走行時の安定感や快適性を高めたりといった、体感しやすい効果が期待できます。
吸気系・排気系のカスタム
エンジンのパフォーマンスを向上させる最も基本的なアプローチが、吸排気効率の見直しです。
- エアクリーナーの交換: 純正のエアクリーナーから、SP武川製のパワーフィルターのような社外品の高効率な製品に交換することで、より多くの空気をスムーズにエンジン内部へ送り込むことが可能になります。これにより燃焼効率が向上し、特にアクセルを開けた際のレスポンスアップが期待できます。
- マフラーの交換: SP忠男やヨシムラといった信頼性の高いブランドからリリースされている社外マフラーに交換することで、排気ガスの抜けが良くなり、特に中〜高回転域でのパワーの伸びや爽快な加速感を得られます。ただし、製品によっては純正よりも音量が大きくなる、あるいは特性の変化で低回転域のトルクが若干細く感じられる場合もあります。また、これらの変更によってエンジンが要求する燃料と空気の最適なバランス(燃調)が崩れる可能性もゼロではないため、場合によってはインジェクションコントローラーによる補正が必要になることも念頭に置く必要があります。
足回りのカスタム
どれだけパワーがあっても、それを支える足回りが貧弱では意味がありません。
乗り心地や安定性を向上させることは、結果的にライダーが安心してアクセルを開けられる状況を作り出します。
- サスペンションの交換: PCX160の純正リアサスペンションは、二人乗りや積載を考慮してか、やや硬めの設定という評価が一般的です。これをキタコやエンデュランスといったメーカーから販売されている、より高性能な社外品に交換することで、路面からの細かな衝撃を効果的に吸収し、乗り心地が大幅に改善されます。製品によってはスプリングの硬さ(プリロード)や衝撃吸収の速さ(減衰力)を調整できるものもあり、自分の好みや走行スタイルに合わせたセッティングが可能です。
- タイヤの交換: 純正装着されているIRC製のタイヤは、燃費、耐久性、グリップ力のバランスが取れた優れた製品ですが、よりスポーツ走行を意識するなら、ミシュランのCITY GRIPシリーズのようなハイグリップタイヤに交換するのも有効です。コーナリング時の接地感や雨天時の安心感が向上し、バイクを操る楽しさが増すでしょう。ただし、一般的にグリップ力が高いタイヤは摩耗が早い傾向にあるため、ライフサイクルとのバランスを考慮して選ぶことが大切です。
PCX160は燃費悪いという評価の真相
PCX160は125ccから排気量がアップしているため、「その分、燃費は良くないのでは?」という先入観を持たれることがあります。
しかし、その評価は完全に誤りです。
結論から述べると、PCX160の燃費性能は同クラスのスクーターの中でトップレベルに位置し、非常に優秀です。
公式スペックであるWMTCモード値(国際的に統一された測定方法)ではリッター44.9kmとされていますが、これは発進、加速、停止を含む様々な走行パターンを想定した数値です。
実際のオーナーからのレポートを見ると、交通状況や運転スタイルにもよりますが、平均してリッター45km〜50km程度という声が多数を占めています。
この驚異的な低燃費を実現している核心技術が、ホンダの誇る高効率エンジン「eSP+(イーエスピープラス)」です。フリクション(摩擦)の低減を徹底的に追求した設計により、少ない燃料で効率よくパワーを生み出します。
さらに、信号待ちなどで停車すると自動的にエンジンを停止させ、スロットルを開けると瞬時に再始動する「アイドリングストップ・システム」も標準装備されており、都市部での無駄な燃料消費を効果的に抑制しています。
もちろん、燃費はライダーのアクセルワークに大きく左右されます。急発進や急加速を繰り返すアグレッシブな運転や、ストップ&ゴーが頻繁に発生する都心部の渋滞路では、燃費はリッター40kmを下回ることもあります。
逆に、信号の少ない郊外の道を一定の速度で巡航するようなツーリングでは、リッター50kmを超える好記録も決して珍しくありません。
8.1Lという燃料タンク容量を考慮すると、満タンからの航続距離は360km以上が期待でき、ツーリングでの給油計画にも大きな安心感をもたらします。
高速道路を多用するとエンジン回転数が高くなるため燃費は若干落ちますが、それを差し引いても極めて経済的な一台であることは間違いありません。
ライバルNMAX155との性能比較
150cc〜160ccクラスの軽二輪スクーター市場は、まさにホンダPCX160とヤマハNMAX155の一騎打ちと言える状況です。
この2台は常に比較対象とされ、購入検討者を悩ませる存在です。
最高速性能に注目すると、両車ともに実測値で時速105km〜110km前後と、パフォーマンスはほぼ互角です。
しかし、スペックシートを深く読み解き、実際の走行フィーリングを比べると、両車が目指す方向性には明確な違いが見えてきます。
項目 | Honda PCX160 | Yamaha NMAX155 | 補足 |
エンジン形式 | 水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒 | 水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒 | 基本的な形式は同じ |
可変バルブ機構 | なし | VVA搭載 | NMAXは中高回転域のパワーを両立 |
最高出力 | 15.8PS / 8,500rpm | 15PS / 8,000rpm | スペック上はPCXがわずかに優位 |
最大トルク | 1.5kgf・m / 6,500rpm | 1.4kgf・m / 6,500rpm | スペック上はPCXがわずかに優位 |
車両重量 | 134kg | 135kg | NMAXがわずかに軽量 |
燃料タンク容量 | 8.1L | 7.1L | PCXの方が航続距離で有利 |
シート下容量 | 約30L | 約23L | PCXの収納力が大きく上回る |
安全装備 | ABS | ABS、トラクションコントロール | NMAXは滑りやすい路面での安定性が高い |
メーカー希望小売価格 | 462,000円(税込) | 459,800円(税込) | ※2025年時点。価格は変動の可能性あり |
NMAX155の最大の特徴は、エンジンに搭載された可変バルブ機構「VVA(Variable Valve Actuation)」です。
これにより、低回転域での扱いやすさと中〜高回転域でのパワフルな伸びを両立しており、特に発進加速や登坂路での力強さはPCX160を上回ると感じるライダーも多いでしょう。
加えて、滑りやすい路面で後輪のスリップを抑制するトラクションコントロールシステムを標準装備するなど、よりスポーティーでアクティブな走りを安全に楽しむための装備が充実しています。
対するPCX160は、どこまでも滑らかでジェントルな乗り味が真骨頂です。
エンジンの振動は極めて少なく、モーターのようにスムーズに吹け上がるフィーリングは、上質さと快適性を強く感じさせます。
スペック上の数値ではPCX160がわずかに上回っていますが、その差を体感できるほどの違いはなく、むしろキャラクターの違いが際立ちます。
結論として、どちらが優れているということではなく、選択はライダーの価値観に委ねられます。
キビキビとした加速感とエキサイティングな走り、最新の電子制御を求めるならNMAX155。
日常の移動における快適性、静粛性、そしてツーリングでの利便性(航続距離や収納力)を重視するならPCX160が、より満足度の高い選択となるでしょう。
実走行で見るPCX160の最高速と実用性

スペックや理論だけでなく、実際の走行シーンでPCX160がどのような顔を見せるのかを深掘りします。特に利用機会が増える高速道路での挙動や、長距離移動の適性について、リアルな視点で解説します。
- 高速道路レビューに見る走行安定性
- 「高速怖い」という意見は本当か
- 高速道路での長距離ツーリング適性
- 街乗りでの加速性能と使いやすさ
- 総括:PCX160の最高速と総合評価
高速道路レビューに見る走行安定性
PCX160は125ccの枠を超え、高速道路という新たなステージへの扉を開いてくれるモデルです。
実際に高速道路を走行した際の安定性については、多くのユーザーからその完成度の高さを評価する声が上がっています。
特に、交通の流れの中心となる時速80kmから100kmの速度域での巡航は、PCX160が最も得意とする領域の一つです。
エンジンはまだ余力を残しており、不快な振動や騒音も少なく、非常にリラックスして走り続けることができます。
この安定感の源は、2021年のフルモデルチェンジで新設計された高剛性なアンダーボーンフレームにあります。
コンパクトなスクーターでありながら、高速走行中に不安を感じるような車体のヨレやハンドルのブレは効果的に抑制されており、ライダーに高い安心感を与えてくれます。
ただし、その一方で注意すべき点も明確に存在します。
それは、132kgという軽量な車体ゆえの、外乱に対する敏感さです。特に、周囲に遮るものがない橋の上や、トンネルの出口などで不意に強い横風を受けると、車体がフワッと流されるような感覚を覚えることがあります。
また、大型トラックやバスに追い越される際に発生する強烈な風圧(タービュランス)によって、一瞬ハンドルを取られることも少なくありません。
これはPCX160の欠点というよりは、軽量なバイク全般が持つ宿命ですが、特に高速走行に慣れていないライダーは、あらかじめ心構えをしておく必要があります。
このような状況では、ニーグリップ(膝で車体をしっかりと挟み込むこと)を意識し、視線を遠くに置くことで、車体の挙動を安定させやすくなります。
この弱点を劇的に改善し、高速クルージングを別次元の快適さへと引き上げてくれるアイテムが、純正オプションや社外品として豊富に用意されているロングスクリーン(ウインドシールド)です。
標準装備のショートスクリーンがデザイン性を重視しているのに対し、ロングスクリーンはライダーの上半身に直接当たる走行風を効果的に後方へ受け流してくれます。
これにより、風圧による疲労が大幅に軽減されるだけでなく、風による車体の不安定な動きも抑制され、高速走行の快適性と安全性が格段に向上します。
高速道路を頻繁に利用する予定があるならば、真っ先に検討したいカスタムパーツと言えるでしょう。
「高速怖い」という意見は本当か
インターネットの掲示板やSNSでは、PCX160での高速走行に対して、一部で「怖い」というネガティブな意見が見受けられます。
この感覚はどこから来るのでしょうか。その原因を分析すると、主に2つの要因に集約されると考えられます。
第一の要因は、前項で述べた「風の影響」です。予期せぬ横風や大型車の風圧に煽られた経験が、恐怖心として記憶に残るケースです。
これは、ロングスクリーンの装着や、風の強い日の走行を避ける、車間距離を十分に取るといった対策である程度は緩和可能です。
そして、より本質的な第二の要因が、「絶対的なパワーと速度の余裕のなさ」です。
PCX160の最高速が時速110km前後であるため、新東名高速道路の一部区間のような最高速度が120km/hに設定されている道路や、追い越し車線を速いペースで流れる交通状況(実勢速度が時速110km〜120kmになることも珍しくない)に合わせようとすると、アクセルをほぼ全開にし続ける必要があります。
このような状況ではエンジンは常に高回転域を維持し、ライダーには精神的なプレッシャーがかかります。
特に、前走車を追い越そうとする際や、坂道を駆け上がる際に「もう一段階上の加速が欲しい」と感じる場面でパワーの限界が見えてしまうことが、「いざという時に頼りない」「怖い」という感覚に繋がるのです。
しかし、この評価はPCX160の性能が低いことを意味するものではありません。
このバイクの設計思想は、サーキットでのタイムを競うものではなく、公道での安全かつ快適な移動を目的としています。
PCX160が最も輝くステージは、高速道路の走行車線を、周囲の交通の流れに調和しながら時速90km前後で穏やかにクルージングするといった走り方です。
無理な追い越しを繰り返したり、常にアクセル全開で走り続けたりするような使い方をしなければ、むしろその卓越した静粛性と安定性から「驚くほど平和で心地よい」と感じるライダーが大多数でしょう。
したがって、「高速怖い」という意見は、ライダーがそのバイクにどのような走りを求めるか、という期待値とのミスマッチから生まれる側面が大きいと言えます。
法定速度内での安全な移動手段として割り切れば、その実用性は非常に高いレベルにあります。
高速道路での長距離ツーリング適性
「PCX160で高速道路を使って、どこまで遠くへ行けるだろうか?」これは、多くのオーナーが抱く夢であり、実用的な疑問でもあります。
この問いに対する答えは、「片道100km〜150km程度の日帰りツーリングであれば非常に快適。
それ以上の本格的な長距離ツーリングになると、ライダーとバイク双方にいくつかの工夫や対策が求められる」というのが現実的な見解です。
長距離走行におけるPCX160の明確なアドバンテージは、やはりその経済性と利便性です。
- 優れた燃費性能: 満タンで360km以上の航続距離が期待できるため、ガソリンスタンドが少ない地域へ向かう際も安心感があります。頻繁な給油から解放されるのは、長距離ツーリングにおいて大きなメリットです。
- 広いシート下収納: 約30Lという大容量のシート下スペースには、レインウェアやパンク修理キット、着替えなどを十分に収納でき、スマートなツーリングが可能です。さらに、純正・社外品のリアキャリアとトップボックスを追加すれば、積載性は飛躍的に向上し、数日間のキャンプツーリングにも対応できます。
その一方で、数百キロメートルを一日で走破するようなハードなツーリングでは、いくつかの弱点が顕在化してきます。
- シートの硬さ: デザイン性に優れた純正シートですが、クッション性はやや硬めに設定されています。そのため、1〜2時間連続で走行するとお尻に痛みを感じ始めるという意見が多く聞かれます。対策としては、手軽なゲル内蔵クッション(ゲルザブ)の使用や、より根本的な解決策として、シート加工専門店でのアンコ盛り・アンコ抜き、あるいは社外品のコンフォートシートへの交換が有効です。
- サスペンションの性能: 純正サスペンションは街乗りでは十分な性能ですが、高速道路の継ぎ目や荒れた路面が続くような状況では、細かな振動を拾いやすく、長時間の走行では疲労として体に蓄積されていきます。乗り心地を重視するなら、前述の通り、より高品質な社外品への交換を検討する価値は十分にあります。
- ライダーを襲う風圧: 標準装備のショートスクリーンでは、高速走行時の風圧がライダーの上半身に直接あたり、体温の低下や体力の消耗に繋がります。長距離ツーリングを快適なものにしたいのであれば、ロングスクリーンへの換装は必須項目と考えるべきです。さらに、冬場の冷たい風から手を守るナックルバイザーや、指先を温めるグリップヒーターを装着すれば、PCX160は季節を問わず活躍できる快適な「ツーリング仕様」へと進化します。
これらの点を総合すると、PCX160は高速道路をひたすら走り続けるグランドツアラーではありませんが、一般道も組み合わせながら、目的地までの移動を効率化し、旅の自由度を広げてくれる素晴らしいパートナーとなり得るバイクです。
街乗りでの加速性能と使いやすさ
これまで高速道路での性能を中心に解説してきましたが、PCX160がその真価を遺憾なく発揮し、「王様」として君臨するステージは、やはり日々の移動を支える市街地走行です。
160ccという排気量がもたらす余裕は、信号や交差点が連続する街中でのストップ&ゴーにおいて、絶大なアドバンテージとなります。
一部の検証データによれば、0km/hから60km/hまでの到達時間は4秒台を記録し、これは兄貴分であるPCX125の6秒台というタイムを大きく引き離します。
この俊敏な加速性能のおかげで、信号からの発進で交通の流れをスムーズにリードできるのはもちろん、幹線道路への合流や、右折レーンからの素早い発進など、交通状況に合わせた素早い判断と行動が求められる場面でも、ライダーに一切のストレスを感じさせません。
また、そのパワフルな心臓とは裏腹に、車体サイズは125ccクラスとほとんど変わらないコンパクトさを維持しています。
車両重量132kg、シート高764mmというスペックは、250ccクラスのスクーターと比較して明らかに軽量かつ足つき性に優れており、性別や体格を問わず多くのライダーにとって扱いやすいものとなっています。
この取り回しの良さは、狭い路地でのUターンや、混み合った駐輪場での出し入れといった日常の細かなシーンで、大きな恩恵として実感できるでしょう。
さらに、モーターのように滑らかで静かなエンジンフィーリングは、街の喧騒の中での移動を上質な時間に変えてくれます。
信号待ちで自動的にエンジンを停止させるアイドリングストップ機能は、静粛性と環境性能、そして燃費に貢献し、ハンドル左側のスイッチボックスに備えられたUSB Type-Cソケットは、移動中にスマートフォンを充電できるなど、現代のライフスタイルに寄り添った便利な機能も充実しています。
高速道路も走行可能な動力性能と、日常の足としての使いやすさを最高次元で両立させていること。
この卓越したバランス感覚こそが、PCX160が多くの人々に選ばれ続ける最大の理由なのです。
総括:PCX160の最高速と総合評価
この記事で解説してきたPCX160の最高速と性能に関する重要なポイントを、以下に箇条書きでまとめます。
- 最高速の実測値はメーター読みで110〜115km/h、GPS実測で105〜110km/h前後が目安
- 実際の最高速はライダーの体重や道路の勾配、風向きなど様々な条件によって変動する
- ECUで制御されるレブリミッターが事実上の最高速を決定しており、一般的なスピードリミッターは非搭載
- 電子制御の複雑化により、現行モデルで手軽に行えるリミッターカットパーツは市販されていない
- 性能を最大限に発揮し続ける最善策は、2万kmごとを目安とした駆動系の定期的なメンテナンス
- マフラーやエアクリーナーのカスタムは最高速の数値向上よりも加速フィーリングの改善に効果的
- 燃費はリッター45km以上を期待できるクラストップレベルの性能で経済性は非常に高い
- 最大のライバルであるヤマハNMAX155は、よりスポーティーで力強い加速感が特徴
- 高速道路では時速90km前後での安定した巡航が最も快適で得意な領域
- 132kgという軽量な車体のため、橋の上などでの強い横風や大型車の風圧には注意が必要
- 純正オプション等のロングスクリーンを装着することで、高速走行の快適性と安定性は劇的に向上する
- 一部で聞かれる「高速怖い」という感覚は、追い越し時などの絶対的なパワーの余裕のなさが主な原因
- 片道150km程度までの日帰りツーリングは快適にこなせるが、それ以上はシートなどの対策を推奨
- 街乗りでは160ccの排気量による力強い加速性能と、125ccクラス並みのコンパクトさで無類の強さを発揮する
- 最高速の絶対的な数値を追い求めるのではなく、日常の使いやすさから高速巡航までをこなす卓越したバランスを評価すべき一台