「カタログ値の半分しか走らないなんて、故障を疑ってしまいますよね。」
こんにちは。デジタルバイクライブラリー、運営者の「ゆう」です。
通勤や通学の頼れる相棒として大人気のホンダ・タクトですが、ガソリンスタンドに行くたびに「あれ、もう給油?」と感じることはありませんか。
カタログには夢のような「リッター80km」という数字が踊っているのに、実際に計算してみるとリッター40kmそこそこ。
この倍近い数字の開きを目の当たりにすると、「自分のタクトだけ燃費が悪いハズレ個体なのではないか」「どこか壊れているのではないか」と不安になってしまうのも無理はありません。
特に、長年乗り続けている車両では、駆動系の摩耗による加速不良や、ベアリングからの異音、オイル漏れといったトラブルが静かに進行しており、それが燃費悪化の決定的な原因になっているケースも多々あります。
この記事では、タクトの燃費にまつわる誤解を解き明かしつつ、燃費が悪化するメカニズムと、愛車を元気にするための具体的な対策について、私の経験と知識を総動員してお伝えします。
- カタログ燃費80km/Lと実燃費の決定的な違いと正常ライン
- 片道5km未満の通勤がエンジンに与えるシビアな影響
- ジョグやレッツ、ダンクといったライバル車との詳細比較
- 燃費悪化の裏に潜む駆動系やベアリングの危険な予兆
タクトの燃費が悪いと感じる原因と真実

「燃費最強」の呼び声高い原付スクーター界の優等生、タクト。それなのに、なぜ多くのオーナーが「燃費が悪い」と感じてしまうのでしょうか。そこには、メーカーが提示する数値のマジックと、私たちが普段バイクを使っている環境の過酷さという、埋めがたいギャップが存在しています。まずは、この「誤解」の正体を数字とメカニズムの両面から解き明かしていきましょう。
リッター何キロ?タクトの実燃費とカタログ
タクトの購入を検討した時、あるいはカタログを眺めた時、一番最初に目に飛び込んでくるのが「燃料消費率 80.0km/L」という驚異的なスペックではないでしょうか。今のガソリン価格を考えると、リッター80キロも走ってくれるなら夢のような乗り物ですよね。「これなら月に一回給油すれば十分かも!」なんて期待に胸を膨らませて乗り出した方も多いと思います。
ところが、実際に街中で乗ってみて、給油のたびにトリップメーターと給油量で計算してみると、弾き出される数字は「38.5km/L」とか「42.0km/L」といった数値ばかり。「えっ、カタログの半分しか走らないじゃん!」と愕然とした経験、私にもあります。詐欺だと言いたくなる気持ちもわかりますが、実はこれ、決してタクトが悪いわけでも、故障しているわけでもないんです。
この「80.0km/L」という数値は、「定地燃費値」と呼ばれる国土交通省への届出値です。この測定条件がかなりの曲者で、「時速30kmで、平坦な道を、風の影響も受けず、信号で止まることもなく、ひたすら一定速度で走り続けた場合」の理論値なんです。私たちのような一般ライダーが、信号だらけで坂道もある日本の道路を走る環境とは、そもそも土俵が違いすぎるんですね。
より実態に近い基準として「WMTCモード値」というものがあります。これは発進・加速・停止などの走行パターンを含んだ国際的な測定基準です。タクトのWMTCモード値は「58.4km/L」となっています(出典:本田技研工業株式会社『タクト 主要諸元』)。
このWMTCモード値の「58.4km/L」であれば、だいぶ現実に近づいてきましたよね。それでもまだ実燃費(約40km/L前後)とは差がありますが、これは運転手の体重や荷物の重さ、タイヤの空気圧、メンテナンス状況などが影響するためです。結論として、街乗りでリッター40km前後走っていれば、あなたのタクトは健康そのものであり、十分に優秀な燃費性能を発揮していると言えます。まずは「半分しか走らない」のではなく、「過酷な環境でも40キロも走ってくれている」と捉え直してみると、愛車への評価も変わってくるのではないでしょうか。
距離が短い通勤が燃費悪化の原因になる理由
タクトオーナーの多くは、毎日の通勤や通学の足として利用されていると思います。実は、この「毎日乗る」「距離が短い(片道5km未満)」という使い方が、燃費にとっては最も過酷な「シビアコンディション」にあたることをご存知でしょうか。
エンジンという機械は、金属の塊です。金属が熱膨張して適切なクリアランス(隙間)になり、エンジンオイルがサラサラになって隅々まで行き渡る「完全暖機」の状態になって初めて、設計通りの性能を発揮します。しかし、走り出して最初の数分間、エンジンがまだ冷えている間は、燃焼が不安定になりがちです。そこで、エンジンの頭脳であるPGM-FI(電子制御燃料噴射装置)は、エンストを防いでスムーズに回るように、通常よりも濃いガソリンをプシュプシュと多めに噴射します。昔のキャブレター車でいうところの「チョークを引いた状態」を自動でやっているわけですね。
ここからが問題です。もしあなたの職場や学校が家から近くて、走り出して5分や10分で到着してしまうとしたらどうでしょう。エンジンが「よし、温まってきたぞ!これから本気出すぞ!」と思った頃には、もう目的地に着いてエンジンを切られてしまうのです。
つまり、走行時間のほとんどを「ガソリン増量キャンペーン中」の状態で走っていることになります。これを毎日繰り返せば、当然ながらガソリンの減りは早くなります。休日にツーリングで長距離を走ると燃費が伸びるのに、平日の通勤だけだと燃費が悪く感じるのはこのためです。これはタクトに限らず、すべてのガソリンエンジン車に言える宿命ですが、特に排気量が小さくパワーに余裕のない原付スクーターでは、この影響が顕著に現れやすいんです。
短距離走行のデメリットまとめ
・エンジンが温まりきらず、常に燃料が濃い状態で走行することになる。
・エンジンオイルに水分やガソリンが混入しやすく、オイルの劣化も早まる。
・バッテリーの充電時間が不足しがちになる。
ヤマハのジョグとタクトの燃費を比較
「ホンダのタクトじゃなくて、ヤマハのジョグにしておけばもっと燃費が良かったのかな…」と、購入後に隣の芝生が青く見えてしまうこと、ありますよね。バイク選びの際にこの2台で迷った方も多いはずです。しかし、声を大にして言いたいのは、「現行モデルに関しては、どちらを選んでも燃費性能は全く同じ」だという事実です。
バイク業界の事情に詳しい方ならご存知かと思いますが、2018年モデル以降のヤマハ・ジョグ(型式:2BH-AY01など)は、実はホンダが製造してヤマハにOEM供給している車両なんです。外装のデザインやカウルの形状こそ違いますが、走りの心臓部であるエンジン、骨格となるフレーム、そしてマフラーや駆動系に至るまで、中身はタクト(AF79)と完全に共通です。
| 比較項目 | ホンダ タクト | ヤマハ ジョグ (現行) |
|---|---|---|
| エンジン種類 | 水冷4ストローク eSP | 水冷4ストローク eSP |
| 最高出力 | 4.5PS / 8,000rpm | 4.5PS / 8,000rpm |
| 最大トルク | 4.1N・m / 6,000rpm | 4.1N・m / 6,000rpm |
| カタログ燃費 | 80.0 km/L | 80.0 km/L |
このようにスペックを並べてみても、双子の兄弟のように瓜二つです。ネットの口コミなどで「ジョグの方が燃費が良い」といった書き込みを見かけることがあるかもしれませんが、それはおそらく2017年以前の自社製エンジンを搭載していた頃のジョグと比較しているか、あるいは単なる個体差やライダーの体重差による誤差でしょう。技術的な構造から見て、タクトから現行ジョグに乗り換えたとしても、燃費が劇的に向上することはあり得ません。今タクトに乗っているあなたは、すでにクラス最高峰の低燃費エンジンを手にしているのですから、自信を持って大丈夫ですよ。
スズキのレッツとの燃費の違いを検証
では、もう一つの強力なライバル、スズキの「レッツ(Let’s)」と比較した場合はどうでしょうか。こちらはOEMではなくスズキ独自の設計で作られており、タクトとは明確に異なるキャラクターを持っています。
最大の違いはエンジンの冷却方式です。タクトがラジエーターを持つ「水冷エンジン」なのに対し、レッツは空気で冷やすシンプルな「空冷エンジン」を採用しています。これにより、レッツは車両重量が非常に軽く仕上がっています。
- ホンダ タクト:車両重量 79kg(水冷システムやしっかりした車体剛性のため少し重い)
- スズキ レッツ:車両重量 70kg(空冷によるシンプル構造で軽量)
この「9kg」という重量差は、非力な50ccエンジンにとっては非常に大きいです。スーパーでお米を10kg買った状態で走るのを想像してみてください。発進のたびに余計なパワーが必要になりますよね。
カタログ燃費(定地)だけで見れば、タクトの80.0km/Lに対してレッツは66.0km/Lと、タクトの圧勝に見えます。しかし、信号待ちからの発進と停止をひたすら繰り返すような都市部の激戦区では、車体の軽いレッツの方がエネルギーロスが少なく、実燃費でタクトに肉薄、あるいは逆転するケースもあり得ます。
とはいえ、タクトの水冷エンジンには「熱ダレに強い」という圧倒的なメリットがあります。真夏の猛暑日に長時間走ってもエンジン温度が安定しており、パワーダウンや燃費悪化を最小限に抑えられます。総合的なエンジンの完成度、静粛性、そして年間を通した燃費の安定感で見れば、タクトのパッケージングはやはり一枚上手だと私は感じています。
兄弟車ダンクとタクトの燃費性能の差
ホンダの原付ラインナップには、「ダンク(Dunk)」という若者向けのスタイリッシュなスクーターが存在します。実はこのダンクも、タクトと同じ「eSPエンジン」を搭載している兄弟車なのですが、燃費性能には微妙な違いがあります。
カタログスペックを見ると、ダンクの定地燃費は「75.3km/L」。タクトの80.0km/Lと比べると、同じエンジンなのになぜか数値が落ちていますよね。この理由は、ダンクの豪華な装備とタイヤサイズにあります。
ダンクはディスクブレーキやスマホ充電ソケットなどの装備が充実している分、車重が81kgとタクトより重くなっています。さらに、タイヤが太くて厚みのあるタイプを履いているため、路面との接地面積が増えて「転がり抵抗」が大きくなっているんです。おしゃれで安定感のある走りと引き換えに、燃費性能をわずかに犠牲にしているわけですね。
逆に言えば、タクト(特にタクト・ベーシック)は、この優秀なeSPエンジンの性能を、燃費と実用性に全振りして引き出しているモデルだと言えます。細めのタイヤで転がり抵抗を減らし、無駄な装備を省いて軽量化する。「移動のコストを最小限にする」という点において、タクトはホンダの50ccラインナップの中で最も最適化された選択肢なのです。「おしゃれさよりも実用燃費!」という方にとって、タクトはこれ以上ないパートナーだと言えるでしょう。
タクトの燃費が悪い時の改善策と故障診断

「カタログ値とのギャップや環境のせいで燃費が変わるのはわかった。でも、最近明らかにガソリンの減りが早すぎる気がする…」。もしそんな違和感を抱いているなら、それはマシンからのSOSかもしれません。乗り方や環境の問題ではなく、内部のパーツが悲鳴を上げている可能性があります。ここからは、燃費悪化の裏に潜むトラブルの兆候と、具体的な対策について深掘りしていきましょう。
加速しない時は駆動系の摩耗を疑うべき
信号待ちからの発進で、アクセルをグイッと回しているのにエンジン音だけが「ブィーーーン!」と大きくなって、スピードがなかなかついてこない。最高速も以前より落ちてしまった。そんな「加速しない」症状を感じているなら、駆動系(CVT)のパーツが限界を迎えている可能性が高いです。
スクーターは、エンジンの動力を「プーリー」「ウエイトローラー」「Vベルト」といった部品を使ってタイヤに伝えています。これらは走れば走るほど削れていく消耗品です。特に重要なのがウエイトローラーです。これが摩耗して丸い形から四角くいびつな形(段減り)になってしまうと、変速がスムーズに行われなくなります。
自転車で例えるなら、平坦な道なのにずっと「一番軽いギア」で必死にペダルを漕いでいるような状態になってしまうんです。エンジンは無駄に高回転まで回っているのに、タイヤには力が伝わらずスピードが出ない。当然、ガソリンばかりを大量に消費することになります。
走行距離が1万キロから1万5千キロを超えている場合、駆動系のオーバーホール時期です。ここを新品に交換するだけで、まるで新車のような鋭い加速と燃費が戻ってくることも珍しくありません。燃費悪化を感じたら、まずはここを疑ってみてください。
ベアリングの異音は燃費低下の危険信号
エンジンを切った状態で、タクトを押して歩いてみてください。「なんだか以前より重いな」と感じたり、走行中に後ろの方から「ゴー」「ガー」という低い唸り声のような音が聞こえたりしませんか?もし心当たりがあるなら、かなり危険な状態です。これは「ベアリング」の破損による抵抗の増大が原因かもしれません。
タクトに限らずホンダのスクーターでは、後輪の軸を支えるトランスミッション内のベアリングや、ドリブンフェイスのベアリングが破損するトラブルが時々見られます。ベアリングはタイヤをスムーズに回すための部品ですが、これが壊れると逆に巨大な抵抗になります。
イメージしてください。常にブレーキレバーを半分握ったまま走っているようなものです。前に進もうとするエンジンに対し、壊れたベアリングが強烈なブレーキをかけ続けるわけですから、燃費が悪くなるのは当たり前ですよね。それどころか、最悪の場合は走行中にベアリングが焼き付いてタイヤがロックし、転倒事故につながる恐れもあります。「異音」はバイクからの悲鳴です。絶対に放置せず、すぐにバイク屋さんで診てもらってください。
オイル漏れが引き起こす深刻な燃費悪化
いつもバイクを停めている場所の地面をチェックしてみてください。黒い油のシミができていませんか?あるいは、エンジンの下回りがオイルでベトベトになっていませんか?「オイル漏れ」もまた、燃費悪化の隠れた犯人になり得ます。
特にタクトで注意したいのが、「クランクシール」というゴムパッキンからのオイル漏れです。ここから漏れたエンジンオイルが、隣にある駆動系(プーリーやベルトが入っている部屋)に侵入してしまうことがあります。すると、ゴム製のVベルトにオイルが付着し、アクセルを開けてもツルツルと滑ってしまう「スリップ」が発生します。
ベルトが滑れば動力はタイヤに伝わりません。進まないから余計にアクセルを開ける。さらにガソリンを使う。この悪循環で燃費は最悪になります。さらに恐ろしいのは、オイルが漏れて減ってしまうことでエンジンの潤滑ができなくなり、最終的にはピストンが焼き付いてエンジンが全損することです。タクトのオイル量は約0.7リットルと缶ジュース2本分程度しかありません。少しの漏れでも致命傷になります。
タイヤの空気圧不足や暖機運転のやりすぎ
ここまでは部品の故障の話でしたが、最後は「メンテナンス不足」と「習慣」の話です。実は一番多い燃費悪化の原因が、単純な「タイヤの空気圧不足」なんです。
原付のタイヤは直径が小さく空気の容量が少ないため、乗っていなくても自然と空気が抜けていきます。空気が抜けたタイヤはふにゃふにゃと変形し、路面との接触面積が増えて「転がり抵抗」が激増します。空気が抜けた自転車を漕ぐのがどれだけ重くて疲れるか、想像できますよね?エンジンも同じように疲弊し、余計なガソリンを使います。月に一度、ガソリンスタンドで空気を入れる。たったこれだけで、燃費がリッター数キロ改善することもザラにあります。
そしてもう一つ、「暖機運転のやりすぎ」も要注意です。冬場、エンジンをいたわるつもりで5分も10分もアイドリングしていませんか?今のタクトのエンジンは高性能なので、長時間のアイドリング暖機は必要ありません。エンジンをかけたら一呼吸おいて、ゆっくりと走り出しながら温める「走行暖機」で十分です。停車してアイドリングしている時間は、走行距離ゼロでガソリンだけを捨てている時間です。ここを削るだけで、実燃費は確実に向上しますよ。
タクトの燃費に関するよくある質問

- ハイオクガソリンを入れると燃費は良くなりますか?
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基本的には変わりません。タクトはレギュラーガソリンで最適に動くように設計されています。ハイオクを入れることでエンジン内を綺麗にする洗浄効果は多少期待できますが、燃費が劇的に伸びたりパワーが上がったりすることはほとんどありません。ガソリン代が高くなる分、経済的なメリットは少ないので、基本的にはレギュラーで十分です。
- 燃費を良くするための改造パーツはありますか?
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「ハイスピードプーリー」や「社外マフラー」などが販売されていますが、これらは主に最高速や見た目を変えるためのものです。発進時の回転数が上がったり、低速トルクが弱くなったりすることで、街乗りでの燃費は逆に悪化するケースが大半です。燃費を最優先するなら、メーカー純正の状態(ノーマル)が一番バランス良く作られています。
- 暖機運転は全くしなくていいのですか?
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真冬の朝一番など、極端に寒い時はエンジンオイルを循環させるために数十秒〜1分程度待つのは有効ですが、5分も10分も停まったままアイドリングする必要はありません。エンジンをかけたらすぐに、急加速を避けてゆっくり走り出す「走行暖機」の方が、ガソリンを無駄にせずエンジンも早く温まるのでおすすめです。
タクトの燃費が悪い悩みの解決まとめ
タクトの燃費について、スペックの裏側から故障の兆候まで詳しく見てきましたが、いかがでしたでしょうか。結論として、タクトは決して「燃費の悪いバイク」ではありません。むしろ、正しく扱えば最強クラスの経済性を発揮してくれる素晴らしいマシンです。
- 実燃費が40km/L前後なら、それは故障ではなく正常な数値。
- 片道数キロの通勤や冬場の使用は、構造的にどうしても燃費が落ちる。
- 急に燃費が悪くなったら、駆動系の摩耗やベアリング、オイル漏れを疑う。
- タイヤの空気圧管理と、無駄なアイドリングの削減は、今日からできる最強の燃費対策。
「燃費が悪い!」と愛車を疑う前に、まずはタイヤに空気を入れて、オイル交換のついでにバイク屋さんで「異音はないですか?」と聞いてみてください。日々のちょっとした気遣いで、タクトはもっと長く、もっと遠くまで、あなたを連れて行ってくれるはずです。
