そのジャイロX、買った瞬間に「修理不能」宣告されるかもしれません。
こんにちは。デジタルバイクライブラリー、運営者の「ゆう」です。
いきなり脅すようなことを言ってごめんなさい。でも、これは決して大袈裟な話ではないんです。配達業務や通勤の足として、今なお絶大な人気を誇るホンダ・ジャイロX。
街で見かけるその姿は、どれも同じような「頼れる三輪バイク」に見えますよね。
しかし、1982年の誕生から2008年の生産終了まで、実に26年間も作られ続けたこのバイクは、見た目こそ変わらなくても、中身はまるで別物と言っていいほど劇的な進化(と変化)を遂げているんです。
もしあなたが、「見た目が綺麗だから」とか「安いから」という理由だけでネットオークションの車両に飛びつこうとしているなら、一度立ち止まってください。
その車両、部品が出ない旧型かもしれません。あるいは、遅すぎてバイパス道路の流れに乗れない規制後のモデルかもしれません。
この記事では、2ストロークジャイロX(TD01型)の「前期・中期・後期」という複雑怪奇な迷宮を、もっとも確実な「車台番号」という羅針盤を使って完全攻略します。
プロの業者ですら間違えることがあるこの違いを理解すれば、あなたはもう「ハズレ車両」を引くことはなくなりますよ。
- 車台番号を見るだけで確実に「前期・中期・後期」を判別する方法
- エンジン出力や最高速度に関わる構造上の大きな違い
- ドライブベルトやCDIなど購入時に間違えやすいパーツの互換性
- ミニカー登録を行う際の年式による難易度の差
ジャイロXの前期と後期の違いを車台番号で見分ける

ジャイロXというバイクは、日本の物流を支えるために生まれた「働くバイク」の代名詞です。長期間にわたって生産されたため、市場には様々な年式が入り乱れています。特に2008年まで生産された2ストロークモデル(TD01)は、外装パーツの形状がほとんど変わっていないため、パッと見ただけでは年式の判別がつきません。
しかし、ご安心ください。バイクには必ず「車台番号(VIN)」という固有のIDが刻まれています。これは人間で言うところのマイナンバーやDNAのようなもので、外装がいくら変えられていても、フレームに刻まれたこの番号だけは嘘をつきません。まずは、この車台番号を使って、あなたのジャイロXがいつ生まれ、どんな性格を持っているのかを特定する方法を深掘りしていきましょう。
車台番号で特定する生産年式一覧
ジャイロXの年式特定において、もっとも信頼性が高く、かつ唯一絶対の基準となるのがフレーム番号です。シートの下、足を乗せるステップボードの右側付近にある小さなカバー(メンテナンスリッド)を外すと、フレームのパイプ部分に打刻された英数字が見えるはずです。もし錆びていて見えにくい場合は、パーツクリーナーと真鍮ブラシで優しく磨いてみてください。
この番号の「TD01-」に続く数字の上3桁を見ることで、その車両の世代を正確に分類することができます。私が長年の経験と膨大なデータから導き出した分類表を以下にまとめました。これはメンテナンス部品を発注する際にも必須となる情報ですので、ぜひスクリーンショットを撮って保存しておいてください。
| 分類 | 車台番号(TD01-) | 製造期間(目安) | モデル認定型式 | 主な特徴と注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 前期型 | 100xxxx 〜 14xxxxx | 1982年 〜 1989年 | A-TD01 | 規制前のフルパワー仕様。 6V電装の初期型も混在。部品の入手難易度が高い。 |
| 中期型 | 150xxxx 〜 18xxxxx | 1990年 〜 1999年 | A-TD01 / BB-TD01 | ホンダの黄金期、Dio系パーツとの共通化が進む。 カスタムベースとして最良。 |
| 後期型 | 210xxxx 〜 最終 | 2000年 〜 2008年 | BB-TD01 | 排ガス規制対応モデル。 触媒マフラー搭載。 専用部品が多く互換性に要注意。 |
なぜ書類ではなく「打刻」を見る必要があるのか?
「登録書類(廃車証明書や標識交付証明書)を見ればいいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、ジャイロXの世界ではそれが通用しないことが多々あるんです。なぜなら、役所への登録は自己申告で行われる場合が多く、前のオーナーが適当な年式で登録していたり、ひどい場合には別の車両の書類を使い回していたりするケースさえあるからです。
また、ネットオークションなどで「後期型仕様!」と書かれていても、それは「外装だけ後期型に変えた前期型のボロ車両」かもしれません。現車確認をする際は、必ず自分の目でフレームの刻印を確認してください。TD01-100…なら前期、TD01-210…なら後期。この事実は決して覆りません。
補足:4ストロークモデルについて
2008年以降に生産されたモデルは型式が「TD02」となります。これはエンジンオイル交換が必要な4ストロークエンジン搭載車で、今回の記事で解説するTD01(2ストローク)とは構造が根本的に異なります。部品の互換性は「ほぼゼロ」と考えてください。
外見に騙されない年式の見分け方
中古車選びで最も陥りやすい罠、それが「見た目」への過信です。ジャイロXは26年間、その基本的なシルエットを変えていません。四角いヘッドライト、大きなリアデッキ、三輪という特徴的なスタイル。これらはアイデンティティであると同時に、年式判別を困難にしている要因でもあります。
特に注意が必要なのが、「ニコイチ」「サンコイチ」と呼ばれる継ぎ接ぎ車両の存在です。業務で使われることが多いジャイロXは、事故でフロントが大破したり、エンジンが焼き付いたりといったトラブルに見舞われることが日常茶飯事です。その際、コストを抑えるために、廃車になった別のジャイロXから使える部品だけを移植して再生することがよく行われます。
プロでも見落とす「隠された真実」
例えば、こんな車両があったとします。
「外装は真っ白でピカピカ、ホイールもアルミ製、メーターも新しいデザイン」
一見すると高年式の極上車に見えますよね。しかし、シートを開けて車台番号を見てみると「TD01-12…」。つまり、中身は40年前の最初期型だった、なんていうホラーのような話が実際にゴロゴロ転がっています。
外装パーツは、前期・中期・後期で取り付け穴の位置が微妙に違うものの、ステーを加工したりタイラップで留めたりすれば、無理やり装着できてしまいます。つまり、カウルやメーター、シートといった「剥がせる部品」は、年式特定の証拠にはなり得ないのです。
それでも見分けるためのディープな視点
とはいえ、車台番号が見づらい写真だけで判断しなければならない時もありますよね。そんな時に役立つ、マニアックな識別ポイントをいくつか紹介しましょう。
ここを見れば怪しい車両が見抜けるかも?
- インナーカウル(足元の黒い樹脂部分): 後期型(TD01-210〜)はバッテリーの収納場所や形状が変わったため、給油口付近の造形が立体的になっています。ここが平坦なら前期・中期の可能性大です。
- リアフェンダーの形状: 後期型はマフラーの触媒が大きくなったのを避けるため、右側のフェンダーが一部切り欠かれたような形状に変更されています。
- スイッチボックスの文字: 前期型は文字が黄色やオレンジで書かれていることが多く、後期型は白文字でプリントされている傾向があります(経年劣化で消えていることも多いですが)。
もちろんこれらも交換されている可能性はありますが、車台番号とセットで確認することで、「この車両は正しくメンテナンスされてきた個体か、それとも寄せ集めか」を推測する材料になります。「綺麗な外装=高年式」という思い込みを捨てること。これがジャイロX選びの第一歩です。
パワー重視の前期と規制後のエンジン
「ジャイロXなんて、どれに乗っても遅いビジネスバイクでしょ?」
もしあなたがそう思っているなら、それは大きな間違いです。実は搭載されている「TA01E」型2ストロークエンジンは、生産された時代背景によって、その性格を「ジキルとハイド」のように変貌させているのです。
前期型(TD01-100〜140番台):野生のトルクモンスター
前期型が生産されていた1980年代は、まだ排ガス規制が現在ほど厳しくありませんでした。そのため、エンジンの設計思想は「いかに重い荷物を積んで、坂道をグイグイ登れるか」という点に全振りがなされています。
技術的に言うと、シリンダーの「排気ポート」の位置が比較的低いのが特徴です。排気ポートが低いということは、爆発したガスがピストンを押し下げる時間(膨張行程)が長くなることを意味します。これにより、エンジンの回転数が低くても強烈なトルク(回転力)を生み出すことができるのです。
実際に乗ってみると、スロットルを開けた瞬間に「ドンッ」と背中を押されるような力強さがあります。酒屋さんがビールケースを満載して急坂を登るために設計された、まさに「プロの道具」としての矜持を感じるエンジンです。最高速も、駆動系さえしっかりしていれば平地で60km/hを振り切るポテンシャルを秘めています。
後期型(TD01-210番台):洗練された優等生
一方、2000年以降の後期型は、平成10年排出ガス規制(第一次規制)という厳しいハードルをクリアするために生まれ変わりました。ホンダのエンジニアたちは、2ストロークエンジンの存続をかけて、燃焼効率の徹底的な改善に取り組みました。
(出典:本田技研工業『ビジネス・スリーター「ジャイロ X」をマイナーチェンジし発売』)
後期型のエンジンは、掃気ポート(混合気を吸い込む穴)の形状が見直され、未燃焼ガスの吹き抜けを防ぐ精密な設計になっています。その結果、エンジンの吹け上がりは非常にスムーズで、振動も少なく、排気音も静かになりました。信号待ちでのアイドリングの安定感は、前期型とは比べ物にならないほど優秀です。
しかし、その代償として「荒々しいパワー」は影を潜めました。発進加速はマイルドになり、坂道では前期型ほどの粘り強さを感じにくいかもしれません。これは環境性能とのトレードオフであり、現代社会で2ストローク車に乗り続けるための必要な進化だったと言えるでしょう。
注意:エンジンの載せ替えについて
「パワーのある前期エンジンを、信頼性の高い後期の車体に載せれば最強では?」と考える方もいますが、電装系(ハーネス)やマフラーの取り付け位置が異なるため、ポン付けは不可能です。大掛かりな配線加工と溶接作業が必要になる「茨の道」ですので、覚悟が必要です。
CDI点火方式に見る電装系の進化
エンジンがかからないトラブルに直面したとき、この「点火方式」の違いを知っているかどうかが運命の分かれ道になります。ジャイロXのCDI(キャパシタ・ディスチャージ・イグニッション)システムは、中期以前と後期で、電気の出処が根本的に異なるのです。
前期・中期:AC-CDI(バッテリーレスでも始動可能)
TD01-180番台までのモデルは、「AC-CDI点火方式」を採用しています。これは、エンジンのフライホイールマグネトー(発電機)で発電された交流電気(AC)を、そのままCDIユニットに送り込んで点火エネルギーとする仕組みです。
この方式の最大のメリットは、「バッテリーの状態に依存しない」ということです。たとえバッテリーが完全に上がっていても、あるいはバッテリーを外した状態であっても、キックペダルを勢いよく踏み込めば、発電機が回って火花が飛び、エンジンを始動させることができます。
これは、長期間放置されがちなビジネスバイクや、防災用として保管される車両にとっては非常に心強い特性です。「とりあえずキックすれば動く」というタフさは、前期・中期ならではの魅力と言えるでしょう。
後期:DC-CDI(安定性重視だがバッテリー必須)
対して後期型(TD01-210〜)は、「DC-CDI点火方式」へと進化しました。こちらはバッテリーに蓄えられた直流電気(DC)を変圧して点火エネルギーに使います。
メリットは、エンジンの回転数に関わらず常に安定した強い火花を飛ばせることです。これにより、冷間時の始動性が向上し、低回転でのアイドリングも非常に安定します。排ガスをクリーンに保つためにも、完全燃焼を促すこの方式が必要だったのです。
しかし、これには致命的な弱点があります。それは、「バッテリーが死ぬと、エンジンも死ぬ」という点です。バッテリーが完全に放電して電圧が極端に下がっていると、いくらキックペダルを蹴ってもCDIが作動せず、火花が飛びません。
トラブルシューティングのヒント
「後期型ジャイロXで、キックしてもエンジンがかからない!」
そんな時は、キャブレターを疑う前に、まずホーンを鳴らしてみてください。もしホーンが「カスカス…」としか鳴らない、あるいは無反応なら、原因は十中八九バッテリー上がりです。ブースターケーブルを繋ぐか、新品バッテリーに交換すれば、嘘のように一発で始動することがありますよ。
最高速に影響するリミッターの有無
公道で車の流れに乗って走る際、最高速度は安全に関わる重要な要素です。ここにも前期と後期で明確な線引きが存在します。
前期型:物理限界まで回るエンジン
前期型の純正CDIには、電気的にエンジンの回転を止める「リミッター機能」は搭載されていません。アクセルを開け続ければ、エンジンが壊れるか、駆動系の変速が終わって抵抗に負けるまで、どこまでも加速しようとします。
もちろん、ノーマルのエンジンパワーとプーリーの設定では、平地で60km/h前後が限界ですが、下り坂など条件が揃えばメーターを振り切るほどの速度が出ることもあります。この「開放感」も前期型ファンが多い理由の一つですね。
後期型:安全と環境のための電子制御
一方、後期型の純正CDIには、明確な「回転リミッター」がプログラムされています。個体差はありますが、概ね実測で55km/h〜58km/h付近に達すると、点火タイミングを間引いたりカットしたりして、それ以上の回転上昇を抑え込みます。
走行中に「ウィーン、ガガガッ」という感じで、エンジンの音が頭打ちになり、まるで後ろから引っ張られるような感覚に陥るのがリミッター作動の合図です。
リミッターカット(解除)の難易度
「じゃあ、社外品のCDIに変えてリミッターを切ればいいじゃないか」と思いますよね。ここで問題になるのが配線の互換性です。
- 前期・中期: カプラーの形状さえ合えば、ポン付けで交換できる社外CDIが多く販売されていました(現在は廃盤も多いですが)。
- 後期型: 後期専用のCDI(通称「青箱」など)が必要ですが、これらは配線のピン配列が複雑だったり、そもそも純正ハーネスの加工(割り込み配線)が必要だったりと、取り付けのハードルが少し高くなります。
安易に「ジャイロ用CDI」として売られている安いパーツを買うと、コネクタの形状は同じでも配線の中身が違っていて、キーをオンにした瞬間にヒューズが飛んだり、最悪の場合CDIやハーネスが焼き切れたりする事故が多発しています。後期型のリミッター解除は、電気配線図を読める知識がないとリスキーな作業になることを覚えておいてください。
ジャイロXの前期と後期の違いが生むパーツ互換性

「同じジャイロXなんだから、ネジ一本くらい違うだけでしょ?」
そんな軽い気持ちで部品を注文し、届いたパーツを前に途方に暮れる…。これはジャイロオーナーなら誰もが一度は通る道です。しかし、この記事を読んでいるあなたは、そんな悲劇を回避できます。
特に「後期型(TD01-210〜)」は、ホンダが本気で設計変更を行ったため、多くの主要パーツが専用設計になっています。ここでは、絶対に間違えてはいけない「互換性の罠」について解説します。
後期型は専用ドライブベルトが必須
ジャイロXのメンテナンスで最も頻繁に行われるのがドライブベルトの交換ですが、ここが最大の落とし穴です。
前期・中期は「Dio系」と同じナローサイズ
前期・中期モデルの駆動系は、当時のホンダの主力スクーターである「スーパーDio」や「タクト」と共通の規格で作られています。ベルトの幅は約15mm〜15.5mm程度。カー用品店やホームセンターでも売っているような「ホンダ50ccスクーター汎用ベルト」が大体使えてしまいます。
後期型は「ロング&ワイド」の独自規格
しかし、後期型は違います。加速騒音規制に対応しつつ動力性能を確保するため、変速比(ギア比の幅)を広げる改良が行われました。そのためにプーリー(滑車)の直径が大きくなり、それに合わせてベルトも「幅が広く(約18.5mm)、長さも長い」専用品が採用されています。
【警告】間違ったベルトを使うとどうなる?
もし後期型の車体に、前期用の細いベルトを装着したらどうなるでしょうか?
- 最高速が激減する: ベルトが細すぎるため、プーリーが変速してもベルトが外側に移動できず、自転車でいう「軽いギア」のまま走り続ける状態になります。エンジンは唸るのに、スピードは40km/hも出ない、なんてことになります。
- ベルトが粉砕する: プーリーの隙間でベルトが暴れまわり、過度な摩擦熱が発生。最悪の場合、走行中にベルトが切れて絡まり、後輪がロックして転倒する大事故に繋がります。
部品を購入する際は、商品名に「ジャイロX」と書いてあるだけでなく、「TD01-210番台対応」「後期型専用」「ロングサイズ」といった表記があるかを、執念深く確認してください。純正品番で注文するのが最も確実なのは言うまでもありません。
プーリー交換で注意すべき軸の太さ
「加速を良くしたい」「最高速を伸ばしたい」と思ってハイスピードプーリーを導入する場合も、前期と後期では選び方が異なります。キーワードは「クランクシャフトの軸径」です。
細軸と太軸の歴史
ホンダの50ccエンジンには、歴史的に「細軸(初期)」と「太軸(中期以降)」という規格の違いが存在します。ジャイロXも例に漏れず、TD01-100番台などの初期型は細軸、それ以降は太軸へと変更されています。
さらにややこしいのが後期型です。軸の太さは同じ太軸なのですが、プーリーを固定する中心部分(ボス)の長さや、ランププレートという裏蓋の形状、そしてクランクシャフトのスプライン(ギザギザ)の切り方が微妙に変更されている場合があります。
スプライン舐めの悲劇
適合しないプーリーを無理やりナットで締め込んで装着すると、エンジンの回転力を伝えるスプライン部分が削れてツルツルになってしまう「スプライン舐め」が発生します。こうなると、プーリーが空転して走らなくなるだけでなく、クランクシャフト交換という、エンジンを全分解する数十万円コースの重整備が必要になってしまいます。
社外品のプーリーキットを買う際は、「太軸用」「細軸用」の区別はもちろん、「ジャイロX後期(排ガス規制車)対応」と明記された信頼できるメーカー(KN企画やデイトナなど)の製品を選ぶようにしましょう。
触媒マフラーによる排ガス対策の罠
後期型が「環境に優しい」のは、マフラーの中に触媒(キャタライザー)という装置が入っているからです。これは白金やロジウムなどの貴金属を使ったハニカム(ハチの巣)構造のフィルターで、排気ガス中の有害物質を化学反応で無害化する役割を持っています。
詰まりという持病
非常に高性能なこのマフラーですが、弱点があります。それは「詰まりやすい」ことです。2ストロークエンジンは構造上、どうしてもエンジンオイルが燃え残って排気ガスに混ざります。触媒の細かい網目は、このオイルの燃えカス(カーボン)をキャッチしてしまい、長年乗っていると徐々に塞がってきてしまうのです。
マフラーが詰まると、人間で言えばマスクをして全力疾走するようなもの。排気がスムーズに出せないので新しい空気が吸えず、エンジンパワーが極端に落ちます。「最近、坂道を全然登らなくなった」という後期型ジャイロXの原因の多くは、このマフラー詰まりです。
焼いても直らない?
昔の原付なら「マフラーを焚き火にくべてカーボンを焼き切る」という荒技が通用しましたが、後期型の触媒マフラーでこれをやると、高熱で触媒の貴金属が溶けたり剥がれたりして、逆にトドメを刺すことになります。詰まってしまったら、高価な新品マフラーに交換するか、触媒のない社外マフラーに交換するしかありません。
また、後期型マフラーには「二次空気供給装置(PAI)」というシステムが接続されています。これはエアクリーナーから綺麗な空気をマフラー内に送り込み、排ガスの浄化を助ける仕組みです。前期型のマフラーにはこのパイプを繋ぐ穴がないため、ポン付け流用はできません。もし社外マフラーに変える場合は、このPAIの配管を適切に処理(キャンセル加工など)しないと、排気漏れや異音の原因になります。
ミニカー登録の改造難易度と注意点
ジャイロX最大のメリットとも言える「ミニカー登録」。原付(50cc)でありながら、水色のナンバープレートを取得することで、以下のメリットを享受できる魔法のような制度です。
- 法定速度が30km/hから60km/hに引き上げられる
- 面倒な二段階右折が不要になる
- ヘルメット着用義務がなくなる(安全のため着用を強く推奨しますが!)
この登録を行うための条件はただ一つ、「後輪のトレッド(左右のタイヤの中心間距離)を500mm以上に広げること」。しかし、この改造の難易度が前期と後期で天と地ほど違います。
前期・中期:DIY初心者でも可能なレベル
前期・中期のジャイロXは、リア周りの構造がシンプルです。純正のホイールを外し、ハブとの間に市販の「40mmスペーサー(アルミの輪っか)」を挟んで、長いボルトで締め直すだけ。これだけでトレッドが広がり、条件クリアです。フェンダーなどの干渉も少なく、比較的イージーに改造できます。
後期型:干渉との戦い
問題は後期型です。前述した通り、後期型はマフラーが巨大化しており、エンジンカバーやリアフェンダーの形状がそれに合わせて変更されています。
ここに前期型と同じ感覚でスペーサーを入れてタイヤを外側に張り出させると、サスペンションが沈み込んだ時に、タイヤがフェンダーの端っこにガリガリと接触してしまうのです。そのため、後期型をミニカー化する場合は、以下のいずれかの対策が必要になります。
- フェンダーカット: 干渉する部分のプラスチックをノコギリやカッターで切り落とす。もっとも安上がりですが、泥はねしやすくなります。
- ヒップアップアダプター: リアショックを延長して車高を上げ、フェンダーとタイヤの距離を物理的に離す。
- オフセットホイール: スペーサーを使わず、ホイール自体の形状で外側にタイヤを出す専用ホイールを使う。
「後期型はスペーサーを入れるだけじゃ終わらない」。この事実を知らずにパーツを買ってしまうと、取り付け作業中に泣きを見ることになります。
アルミホイールとハブの適合サイズ
最後は、カスタムの王道であるワイドタイヤとアルミホイールのお話です。迫力あるリアビューを手に入れるために欠かせないパーツですが、ここにも「スプラインの罠」が潜んでいます。
社外品のアルミホイールを装着するには、純正の鉄ホイール用のハブ(土台)ではなく、アルミホイール専用の「マルチハブ」などが必要になるケースが大半です。このハブを車軸(アクスルシャフト)に差し込むわけですが、この差し込み口のギザギザ(スプライン)の規格が、年式によって異なります。
知っておきたいPCDの話
ホイールを固定するボルトの間隔を「PCD」と言いますが、ジャイロ純正は特殊な規格です。社外品のアルミホイールは、自動車用の「PCD100」や「PCD110」を採用していることが多いため、ハブもそれに対応したものを選ぶ必要があります。
ネット通販でよく見かける「ジャイロ用ハブ・ホイールセット」には、「初期型用」「中期以降用」「後期用」などと細かく適合が分かれています。もし、TD01-210番台の車両に、TD01-180番台用のハブを付けようとすると、スプラインの径や歯数が微妙に合わず、ガタガタになったり、そもそも入らなかったりします。
ここでもやはり、最強の武器は「車台番号」です。購入ボタンを押す前に、ショップの問い合わせフォームから「車台番号TD01-210xxxxxですが、このハブは適合しますか?」と一言聞く勇気を持ってください。その一手間が、数万円の無駄遣いを防ぐ唯一の方法です。
ジャイロX購入前に知っておきたいQ&A

最後に、私がブログの読者さんからよく相談される質問をQ&A形式でまとめてみました。購入前の最終確認として役立ててください。
- 前期型の純正部品はまだ新品で手に入りますか?
-
正直に言うと、かなり厳しい状況です。
ワイヤー類やガスケットなど、一部の消耗品はまだメーカー在庫が出る場合もありますが、CDIや外装カウル、エンジン内部の重要パーツなどは「廃盤(ご相談パーツ)」となっているものがほとんどです。前期型を維持するには、ヤフオク!などで中古部品を確保するか、他車種からの流用情報をリサーチする情熱が必要です。 - 後期型のリミッターカット(CDI交換)はおすすめですか?
-
基本的にはおすすめしません。
記事内でも触れましたが、後期型の配線は複雑で、安価な社外CDIによる電気トラブルが多発しています。また、無理に回転リミッターを解除しても、ノーマルの吸排気設定のままでは高回転でパワーが出ず、エンジン寿命を縮めるだけになりがちです。最高速を伸ばしたいなら、CDIを変える前に、プーリーやベルトなどの駆動系セッティングを見直す方が、安全かつ効果的ですよ。 - 4ストロークのジャイロX(TD02)と迷っています。どっちが良いですか?
-
「パワー」を取るか「燃費」を取るか、で決めましょう。
もしお住まいの地域に坂道が多かったり、重い荷物を積んで車の流れに乗る必要があったりするなら、トルクフルな2ストローク(TD01)の方がストレスなく走れます。
逆に、平地での移動がメインで、ガソリン代を節約したい、静かに走りたいという場合は、燃費性能に優れた4ストローク(TD02)を選ぶのが正解です。ご自身の利用シーンをイメージして選んでみてくださいね。
ジャイロXの前期と後期の違い総括
ここまで、ジャイロXの前期と後期の違いについて、かなりディープな部分までお話ししてきました。最後に、それぞれの特徴から「どんな人にどちらがおすすめか」をまとめてみたいと思います。
前期・中期型がおすすめな人
- 2ストローク特有の「加速感」や「パワー」を楽しみたい人
- 自分でキャブレターを分解したり、駆動系をいじったりする整備スキルがある人
- Dio系パーツを流用して、なるべく安く修理・改造を楽しみたい人
- 多少の白煙やオイル汚れは「味」だと思える寛容な人
後期型(TD01-210〜)がおすすめな人
- 毎日の通勤や仕事で使うため、「始動性の良さ」や「信頼性」を最優先したい人
- 近所迷惑にならないよう、静かな排気音と少ない白煙を求める人
- 「純正の状態」で長く大切に乗り続けたい人
- バッテリー管理などの基本的なメンテナンスを欠かさず行える人
「前期はパワーがあるけど手がかかる」「後期はマイルドだけど優等生」。ざっくり言うとそんなキャラクターの違いがあります。
古いバイクではありますが、しっかり手を入れてあげれば、まだまだ現役で元気に走ってくれるのがジャイロXの良いところです。ボロボロの車両を直して乗るのもよし、綺麗な後期型を大切に乗るのもよし。ぜひ、あなたのライフスタイルと整備スキルに合った一台を見極めて、楽しいジャイロライフを送ってくださいね!
