「たかがオイル、されどオイル。この液体選びを間違えるだけで、あなたの愛車のエンジンが一瞬にして『ただの鉄の塊』に変わる可能性があることをご存知でしょうか?」
こんにちは。デジタルバイクライブラリー、運営者の「ゆう」です。
毎日の通勤や通学、買い物にと、私たちの生活を足元から支えてくれるホンダのタクト。
燃費も良くて故障も少ない、まさに優等生なスクーターですが、そのタフさに甘えてメンテナンスを後回しにしていませんか?特にエンジンオイルは、人間で言えば血液そのもの。ドロドロの血液ではどんなに健康な人でも倒れてしまうように、タクトのエンジンも適切なオイル管理なしでは本来の性能を発揮できません。
「そろそろ交換時期かな?」と思っても、ホームセンターの棚に並ぶ無数のオイル缶を前に、「種類が多すぎてどれを選べばいいか分からない」「粘度?規格?専門用語ばかりで頭が痛い」と立ち尽くしてしまう方も多いはずです。また、せっかくオイル交換をしたのに、メーターの「OIL CHANGE」ランプが消えなくて焦った経験はありませんか?
実は、タクトという車種は長い歴史の中でエンジンの仕組みがガラリと変わっており、年式に合わないオイルを入れると致命的な故障に繋がるリスクがあります。この記事では、あなたのタクトに最適な「正解のオイル」をズバリ提示し、初心者でも失敗しない交換手順から、あの厄介な警告灯のリセット方法までを徹底的にガイドします。
- 現在のあなたのタクトに適合する「オイルの規格」と「粘度」の正解
- 絶対に間違えてはいけない「2ストローク車」と「4ストローク車」の見分け方
- 写真付き解説書よりも詳しい、自分で行うオイル交換の完全手順とリセット法
- ショップ任せとDIY、それぞれのコスト比較と最適なメンテナンスサイクル
ホンダタクトのオイルでおすすめな種類と選び方

タクトのオイル選びにおいて最も重要なのは、決して「値段が高い高級オイルを入れること」ではありません。「エンジンの設計思想に合致した規格を選ぶこと」、これに尽きます。タクトは1980年代から続くロングセラーモデルであるがゆえに、同じ「タクト」という名前でも、中身は全く別の乗り物と言っていいほど進化しています。ここでは、間違いないオイル選びの基準と、私が長年のバイクライフの中で「これは良い!」と感じた銘柄について、理由を添えて詳しく解説していきます。
2ストと4ストの違いと適合オイル
オイル選びの第一歩にして、絶対に間違えてはいけない最大の分岐点。それが、あなたの愛車が「2ストローク(2st)」エンジンなのか、「4ストローク(4st)」エンジンなのかという確認です。「エンジンの仕組みなんて分からないよ」という方も安心してください。見分け方はとても簡単ですし、これを知らないと本当にエンジンを壊してしまいます。
なぜ区別が重要なのか?
この2つのエンジンは、オイルの使い方が根本的に異なります。
- 2ストローク(旧型): ガソリンと一緒にオイルを燃焼させて走ります。そのため、オイルは走れば走るほど減っていき、「継ぎ足し(補充)」が必要です。
- 4ストローク(現行): オイルはエンジン内部を循環して潤滑します。基本的には減りません(厳密には僅かに減りますが)が、汚れが溜まるため定期的な「全量交換」が必要です。
もし、4ストロークのタクトに2スト用のオイルを入れてしまったり、逆に2スト車に4スト用のオイルを入れてしまったりすると、潤滑不足による焼き付きや、マフラーの詰まり、点火プラグの汚損など、深刻なトラブルを招きます。
見分けるためのチェックポイント
以下の特徴に当てはまる場合は、ほぼ間違いなく「4ストローク」です。
4ストローク(現行モデル)の特徴
- 型式が「AF75」または「AF79」である。(書類や車体のラベルで確認可能)
- ここ10年以内に新車で購入した。
- マフラーからの排気ガスが無色透明で、煙たくない。
- メーター内に「OIL CHANGE」という警告灯がある。
逆に、以下の特徴がある場合は「2ストローク」の可能性が高いです。
2ストローク(レガシーモデル)の特徴
- 型式が「AF09」「AF24」「AF30」「AF51」などである。
- 車体が角ばったデザイン、またはかなり古い。
- マフラーから白煙が出る。独特のオイルが焼ける匂いがする。
- メーターに「OIL」と書かれた赤い警告灯があり、オイルが減ると点灯する。
それぞれのおすすめオイル
【4ストローク車(AF75/AF79)の場合】
この記事の後半で詳しく解説する「10W-30」の4サイクル用エンジンオイルが必要です。基本的にはホンダ純正の「ProHonda SCOOTER」を選べば間違いありません。
【2ストローク車の場合】
必ず「2サイクルエンジンオイル」を使用してください。おすすめはホンダ純正の「ProHonda 2SUPER」です。2スト車はマフラーにカーボン(煤)が溜まりやすいのが欠点ですが、このオイルは煙を抑える「スモークレス性能」が非常に高く、マフラー詰まりのトラブルを未然に防いでくれます。ホームセンターで売られている格安の「草刈機用オイル」などは、高回転で回るスクーターには油膜強度が足りない場合があるので避けた方が無難です。
純正E1と粘度10W-30の理由
街中で見かける現行タクト(eSPエンジン搭載車)に乗っているあなたへ。私が自信を持って推奨するオイルは、メーカーであるホンダが指定している純正オイル「ProHonda SCOOTER」です。「なんだ、結局純正か」と思われるかもしれませんが、これには深い工学的理由があります。
「JASO MB規格」という秘密兵器
バイク用オイルには「MA」と「MB」という2つの規格(JASO規格)があります。これは「摩擦(フリクション)」の特性を示しています。
- MA規格(高摩擦): カブやCBシリーズのような、変速ギアとクラッチがオイルに浸かっているバイク用。クラッチが滑らないように、あえて摩擦を適度に残してあります。
- MB規格(低摩擦): スクーター専用。タクトのようなスクーターは、変速機(Vベルト)がエンジンオイルとは別の部屋にあるため、オイルでクラッチの滑りを気にする必要がありません。そのため、摩擦低減剤(モリブデンなど)をたっぷりと配合し、極限まで摩擦を減らしてサラサラにすることが許されているのです。
ホンダの「ウルトラ E1」は、このMB規格を取得したオイルです。タクトのeSPエンジンは「低燃費」を売りにしていますが、その性能を100%引き出すには、エンジン内部の抵抗を極限まで減らすこのMBオイルが不可欠なのです。MA規格のオイル(ウルトラG1など)を入れても壊れはしませんが、せっかくの低燃費性能や、スムーズな加速感が損なわれてしまう可能性があります。「タクトにはMB!」これを合言葉にしてください。
粘度「10W-30」の必然性
次に粘度です。ホンダは「10W-30」を指定しています。
| 粘度表記 | 意味 | タクトへの影響 |
|---|---|---|
| 10W (低温粘度) | 冬場の始動性に関わる数値。数字が小さいほど低温で柔らかい。 | 10Wあれば日本の冬でもセル一発始動が可能。これ以上硬い(20Wなど)と、冬の朝にエンジンがかかりにくくなる。 |
| 30 (高温粘度) | エンジンが熱くなった時の硬さ。数字が大きいほど熱に強い。 | 50ccのeSPエンジンは精密に作られており、30番の硬さで最適な油膜ができるよう設計されている。40番や50番を入れると抵抗が増え、燃費悪化やパワーダウンを招く。 |
「夏場はエンジンが熱くなるから、硬いオイル(10W-40)の方がいいのでは?」という質問をよく受けます。確かに空冷の大排気量バイクならそうなのですが、タクトは「水冷エンジン」です。冷却水によってエンジン温度は一定に保たれているため、季節を問わず指定の「10W-30」を通年で使用するのがベストな選択です。
タクトのオイル交換に必要な量
オイル交換を自分で行う際、最も基本的ながら重要なデータが「オイル量」です。タクト(AF75/AF79型)のエンジンオイル交換時の規定量は、0.7リットル(700ml)と定められています。
0.7リットルという絶妙な量
多くのバイク用エンジンオイルは「1リットル缶」で販売されています。「0.7リットル使うなら、1本買えば足りるな」と安心されたかと思います。その通りです。1缶買えば十分足りますし、0.3リットル余ります。この「余り」をどうするかが、DIY派の腕の見せ所です。
余ったオイルの活用法
余った0.3リットルは捨てないでください!キャップをしっかり閉め、直射日光の当たらない涼しい場所(ガレージの隅や物置など)で保管すれば、半年〜1年程度は問題なく持ちます。単純計算で、オイル缶を2本買えば(余り0.3L + 余り0.3L = 0.6L になるので)、3回目の交換時には、あと0.1L足すだけで交換できてしまいます。3回交換すれば約1回分が浮く計算になりますね。これがDIYの醍醐味です。
「入れすぎ」は「不足」と同じくらい危険
ここで一つ、強く警告しておきたいことがあります。それは「オイルの入れすぎ厳禁」ということです。 「多い分には安心だろう」と思って、1リットル缶を全部ドボドボと入れてしまう方が時々いらっしゃいます。これは絶対にNGです。
規定量を超えてオイルを入れると、クランクケース内の空気の逃げ場がなくなり、内圧が異常に上昇します。その結果、ピストンの動きが妨げられてエンジンが重くなったり、行き場を失ったオイルがブローバイガスと共にエアクリーナーボックスへ逆流し、フィルターをベタベタにして吸気不足(エンスト)を引き起こしたりします。最悪の場合、エンジンシールが吹き飛んでオイル漏れを起こすこともあります。必ず計量カップで0.7リットルを測るか、レベルゲージで確認しながら慎重に入れてください。
オイル交換の値段と安く済む方法
毎日の足として使うタクトだからこそ、維持費(ランニングコスト)は1円でも安く抑えたいものです。オイル交換にかかる費用は、プロに任せるか、自分で手を動かすかで大きく変わります。それぞれのコスト構造を分解してみましょう。
1. バイクショップに依頼する場合
最も確実で手間のかからない方法です。
- 費用の目安: 2,000円 〜 3,000円(税込)
- 内訳: オイル代(1,000円〜1,500円) + 工賃(1,000円〜1,500円) + 廃油処理費
ショップによっては会員割引や、オイルリザーブシステム(先払い)で安くなる場合もありますが、一般的にはこのくらいの金額です。メリットはなんと言っても「プロの目」が入ること。オイル交換のついでに、空気圧チェックやブレーキの遊び調整などをサービスでやってくれるお店も多いので、メンテナンスに自信がない方は、この「安心料」込みの価格と割り切るのも賢い選択です。
2. 自分で交換する場合(DIY)
少しの手間を惜しまなければ、劇的なコストダウンが可能です。
- 費用の目安: 800円 〜 1,500円
- 内訳: オイル代(約800円〜1,300円) + ドレンワッシャー代(約50円〜100円)
工賃は自分で行うのでタダです。つまり、ショップに頼む半額以下で済みます。ネット通販などでオイルをまとめ買いすれば、1回あたり1,000円を切ることも難しくありません。
究極のコスト削減術:G1オイルの使用
「もっと安くしたい!」という方には、ホンダ純正のベーシックオイル「ProHonda STANDARD」を使うという裏技もあります。これは本来カブなどのMT車用(JASO MA規格)ですが、タクトに使用してもエンジンの耐久性には問題ありません。ホームセンターやディスカウントストアで1本800円前後で売られていることが多く、入手性も抜群です。ただし、先述の通りMB規格の「E1」に比べると摩擦抵抗がわずかに増えるため、厳密な燃費性能やフィーリングはE1に軍配が上がります。「とにかく動けばいい、安さ優先!」という割り切りができるなら、G1も立派な選択肢の一つです。
初期投資について
DIYを始めるには、最初に工具を揃える必要があります。
- 12mmのメガネレンチまたはソケットレンチ(約1,000円)
- オイルジョッキまたはノズル(約500円)
- 廃油処理箱(約300円/回、または自作も可)
合計2,000円程度の初期投資が必要ですが、2回オイル交換をすれば元が取れてしまいます。
交換時期は距離か期間で判断
「オイル交換って、結局いつやればいいの?」 この問いに対する答えは、メーカーの公式見解と、現場の肌感覚とで少し乖離があります。
メーカー推奨と「シビアコンディション」の罠
タクトの取扱説明書(メンテナンスノート)を見ると、標準的な交換時期は「6,000kmごと または 1年ごと」と記載されていることが多いです。しかし、これを鵜呑みにして6,000km走り続けるのは、日本の交通事情においては少々リスキーだと私は考えています。
なぜなら、50ccスクーターの利用シーンのほとんどは、メーカーが定義する「シビアコンディション(過酷な使用環境)」に該当するからです。(出典:本田技研工業株式会社『メンテナンスの重要性/シビアコンディション』
なぜ「ちょい乗り」がエンジンを痛めるのか
特にエンジンの大敵なのが、「短距離走行(片道8km以下)」の繰り返しです。 エンジンが完全に温まりきる前(適正温度になる前)に目的地に到着してエンジンを切ってしまうと、燃焼によって発生した水分(結露)が蒸発しきれず、オイルパンに溜まっていきます。この水分がオイルと混ざり合うと「乳化(エマルジョン)」という現象が起き、オイルがカフェオレのような色に変質してしまいます。乳化したオイルは潤滑性能が著しく低下し、サビや摩耗の原因となります。
また、頻繁な信号待ちや渋滞によるアイドリング、坂道でのフルスロットル走行なども、小さなエンジンには大きな負担です。オイル容量がわずか0.7リットルしかないタクトにとって、汚れの蓄積スピードは自動車の比ではありません。
デジタルバイクライブラリー推奨の交換サイクル
愛車を長く快調に保ちたいなら、以下のサイクルを強くおすすめします。
- 走行距離基準: 2,000km 〜 3,000kmごと
- 期間基準: 距離を走っていなくても、半年に1回
「早すぎる」と感じるかもしれませんが、オイル交換は最も安価で効果的な「予防医療」です。エンジンを開けて修理することになれば数万円の出費になりますが、オイル交換なら千円程度。転ばぬ先の杖として、早め早めのケアを心がけましょう。
タクトのオイル交換でおすすめな手順と注意点

ここからは、実際にツナギ(あるいは汚れてもいい服)に着替えて、愛車のメンテナンスに挑戦するあなたのための実践ガイドです。タクトのオイル交換は、バイク整備の中では「初級編」に位置づけられる作業ですが、それでもいくつかの「落とし穴」が存在します。特に、交換作業が終わった後の「インジケーターのリセット」は、知らないと絶対に消せない仕組みになっているので、最後までしっかり目を通してくださいね。
自分でやるオイルの入れ方
作業を行う際は、平らなコンクリートやアスファルトの上で行いましょう。砂利道や傾斜地ではセンタースタンドが不安定になり、バイクが倒れる危険があります。また、走行直後のエンジンやマフラーは数百℃にもなる高温です。火傷を防ぐため、エンジン停止後15分〜20分ほど冷まして、「手で触れるくらい」になってから作業を開始するのがベストです。(逆に冷えすぎているとオイルが硬くて抜けにくいので、冬場は2〜3分暖機運転をして少し温めるとスムーズです)
ステップ1:古いオイルを抜く
エンジンの左側(マフラーの反対側)の下を覗き込むと、真下を向いている12mmのボルトがあります。これが「ドレンボルト」です。その下に廃油処理箱(またはトレイ)をセットします。 12mmのレンチをかけ、反時計回り(左回り)に回して緩めます。最後は指で回してボルトを外しますが、ボルトが抜けた瞬間にオイルが「ドバッ!」と勢いよく飛び出してくるので、手にオイルがかからないよう素早く手を引くのがコツです。
ステップ2:出し切るまで待つ
オイルがポタポタと滴る程度になるまで待ちます。車体を少し左右に傾けたりすると、底に溜まった古いオイルが抜けやすくなります。この間に、外したドレンボルトをパーツクリーナーで綺麗にし、古いワッシャーがボルト側に張り付いていないか、あるいはエンジン側に残っていないかを確認して取り除きます。
ステップ3:ドレンボルトを締める
ここが最重要ポイントです。必ず「新品のドレンワッシャー」をセットしたドレンボルトを手でねじ込んでいきます。最初は工具を使わず、指の力で回せるところまで回してください。いきなり工具を使うと、斜めに入っていても気づかずにねじ込み、ネジ山を破壊してしまう恐れがあります。指で止まる所まで締めたら、最後にレンチを使って「クッ、クッ」と本締めします。力任せにギュウギュウ締める必要はありません(規定トルクは24N·mですが、手ルクレンチなら「止まってから1/4〜1/2回転」程度が目安です)。
ステップ4:新しいオイルを入れる
車体右側のファンカバー付近にある「オイルフィラーキャップ(兼レベルゲージ)」を手で回して外します。ここから新しいオイルを0.7リットル注ぎ入れます。漏斗(じょうご)やオイルジョッキを使うとこぼさずに済みます。
ステップ5:油量の確認
キャップをウエスで綺麗に拭き取り、「ねじ込まずに」穴に差し込みます。そして引き抜き、先端のギザギザ部分(アッパーレベルとロアレベルの間)にオイルが付着していればOKです。最後にキャップをしっかりと手で締め込み(工具は使いません)、エンジンをかけて数分間アイドリングさせ、ドレンボルト付近からオイル漏れがないか確認すれば作業完了です!
ドレンワッシャーのサイズと注意点
DIY初心者が最も軽視しがちで、かつ最も痛い目を見る部品。それが「ドレンワッシャー(ドレンパッキン)」です。
サイズは「M12」
タクト(AF75/AF79)に使用されているドレンワッシャーの規格は、「内径12mm(M12)」です。外径は20mm程度のものが一般的ですが、内径さえ合っていれば使用可能です。ホンダ純正品番は「94109-12000」です。カー用品店やバイク用品店、ホームセンターのバイクコーナーで「ホンダ用 M12 ドレンワッシャー」として売られています。
なぜ「再利用」がダメなのか?
「見た目は綺麗だし、もう一回くらい使えるんじゃない?」その気持ち、痛いほど分かります。しかし、ワッシャーは「使い捨て」を前提に設計されています。 新品のワッシャーは、ボルトを締め込む圧力によって自らを「潰す」ことで、ボルトとエンジンの微細な隙間を埋め、オイル漏れを防いでいます。一度潰れてカチカチになったワッシャーを再利用しても、もう変形する余力が残っていません。 その結果、オイルが滲み出てきます。それに気づいたあなたは「締め付けが足りないのかも」と思い、さらに強くボルトを締めるでしょう。
これが悲劇の始まりです。アルミ製のエンジン側のネジ山は、鉄製のボルトよりも弱いため、オーバートルクによってネジ山がズルズルに削れ落ちてしまいます(いわゆる「ネジをなめる」状態)。 こうなると、オイル交換どころではありません。オイルパンの交換やネジ山の修正など、数万円コースの修理が必要になります。たった数十円のワッシャーをケチった代償としてはあまりに大きすぎます。「ワッシャーは毎回新品交換」。これは鉄の掟として心に刻んでください。
オイル交換ランプの消し方
無事にオイル交換が終わって一安心…と思いきや、メーターパネルを見ると「OIL CHANGE」の文字がまだ点灯している。あるいは、交換時期より早めに交換したけれど、距離が来たらまた点灯してしまうのではないか? ご安心ください。タクトには、ユーザーが自分でメンテナンス時期を管理できるリセット機能が備わっています。これはセンサーでオイルの汚れを検知しているのではなく、単に「走行距離」をカウントして点灯させているだけなので、交換後は手動でカウンターをゼロに戻す必要があります。
AF75/AF79型のリセット手順
四輪車のように複雑なメニュー操作は必要ありません。アナログなボタン操作のみで完結します。手順は以下の通りです。
- メインキーをOFFにする: まずはエンジンも電源も切った状態からスタートします。
- ボタンを長押しする: メーターパネルにあるゴム製の「TRIP(またはSELECT)」ボタンを指で押し込み、そのまま押し続けます。
- メインキーをONにする: ボタンを指で押したままの状態をキープし、もう片方の手でキーを回して「ON」の位置にします。(エンジンは始動させないでください)
- 数秒待つ: キーONになってもボタンは絶対に離さないでください。そのまま3秒〜5秒ほど待ちます。
- 消灯を確認: 「OIL CHANGE」インジケーターが点灯(または点滅)した後、スッと消えます。
- 完了: ランプが完全に消えたら、ボタンから指を離してOKです。
この一連の動作は、「左手でボタンを押し込みながら、右手でキーを回す」という体勢で行うとスムーズです。もし交換時期(6,000km)が来る前に早めにオイル交換をした場合でも、この操作を行っておくことを推奨します。そうすることで内部カウンターがリセットされ、またゼロからカウントが始まるため、次回の交換時期を正確に知らせてくれるようになります。
警告灯が消えない時の対処法
「手順通りにやったつもりだけど、どうしても消えない!」 そんな時にチェックすべきポイントをまとめました。焦らず一つずつ確認してみてください。
1. ボタンを離すタイミングが早すぎる
最も多い原因です。キーをONにした瞬間に「あれ?消えない?」と思って指を離していませんか?システムがリセット信号を受け付けるまでには数秒のタイムラグがあります。ランプが消えるその瞬間まで、親指に力を込め続けてください。
2. メーター表示が「ODOMETER」になっていない
一部の年式やモデルでは、トリップメーター(区間距離)が表示されている状態ではリセット操作を受け付けない場合があります。キーONの状態でボタンを短く押し、表示を「TOTAL(総走行距離)」に切り替えてから、再度最初から手順を試してみてください。
3. ボタンの接触不良
雨ざらしで保管されている車両や、年式の古い車両では、ゴムボタンの裏側の接点が汚れて反応が悪くなっていることがあります。「押しているつもり」でも、電気的には押されていない状態です。普段より強めに、爪を立てないように注意しながら、グッと奥まで押し込むように意識してみてください。
タクトのオイル交換に関するよくある質問(Q&A)

記事を読んでいただいた方から、よくいただく質問をQ&A形式でまとめました。「これってどうなの?」という疑問を解消していきましょう。
- オイル交換を全くしないと、最終的にどうなりますか?
-
エンジンが焼き付き、数万円単位の修理費がかかります。
最初は「燃費が悪くなる」「エンジンの音がうるさくなる」程度ですが、限界を超えるとピストンとシリンダーが摩擦熱で溶着(焼き付き)してしまいます。こうなると、エンジンがかからなくなり、後輪もロックして動かせなくなります。修理にはエンジンを開ける大掛かりな作業が必要で、場合によっては廃車になることも珍しくありません。オイル代の千円をケチった結果としては、あまりに代償が大きいので絶対にやめましょう。
- 自動車用のエンジンオイルが余っているのですが、タクトに入れてもいいですか?
-
基本的にはおすすめしません。
「4サイクルエンジン」という点では同じですが、自動車と原付スクーターでは常用する回転数が桁違いです(車は2,000〜3,000回転、タクトは6,000〜8,000回転)。車用のオイルは、スクーターの高回転・高負荷に耐えられる設計になっていない場合があります。また、摩擦調整剤(添加剤)の配合も異なります。出先でのオイル漏れなど、緊急時の応急処置として使う分には壊れませんが、長く乗るなら二輪車専用オイルを入れるのが無難です。
- タクトには「オイルフィルター(エレメント)」はありますか?
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交換式のフィルターはありませんが、清掃式の「網」があります。
大きなバイクにあるような、定期的に交換するカートリッジ式のオイルフィルターはタクトには付いていません。その代わり、エンジン内部に「オイルストレーナー」という茶こしのような金網が入っており、大きなゴミをキャッチしています。これは交換不要ですが、オイル交換2〜3回に1回程度取り外して、パーツクリーナーで掃除してあげるとより親切です。
- 自分で交換した廃油は、どうやって捨てればいいですか?
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絶対に下水や土に流してはいけません。「廃油処理箱」を使いましょう。
廃油は環境汚染の原因になるため、適切な処分が法律で義務付けられています。一番簡単なのは、ホームセンターなどで売っている「廃油処理箱(オイルパック)」を使う方法です。箱の中の吸収材にオイルを吸わせて、そのまま「燃えるゴミ」として捨てることができます(※自治体によって分別ルールが異なる場合があるので、必ずお住まいの地域のルールを確認してください)。ガソリンスタンドでも引き取ってくれる場合がありますが、最近は断られることや有料の場合も多いので事前に確認しましょう。
- オイルレベルゲージ(キャップ)が固くて手で開きません!
-
ペンチなどの工具を使って、布を当てながら回してみてください。
前回締め付けた時に強く締めすぎたか、熱で固着している可能性があります。プライヤーやペンチで回せば開きますが、プラスチック製なのですぐに傷がついたり割れたりします。必ず雑巾やウエスを挟んで、傷がつかないように優しく回してください。締めるときは、工具を使わず「手でキュッと締める」程度で十分ですよ。
タクトのオイルでおすすめな管理法
最後に、私が考える「タクトの寿命を延ばすためのオイル管理法」をお伝えします。
高級オイルよりも「鮮度」を重視する
人間は高いサプリメントを飲むよりも、毎日のバランスの良い食事が健康を作ります。タクトも同じです。1リットル3,000円もするような超高級化学合成油を1万キロ使い続けるよりも、1本1,000円の純正オイルを2,000kmごとに交換する方が、エンジンのコンディションは圧倒的に良くなります。 オイルはエンジン内部の汚れ(スラッジやカーボン)を取り込む「清浄分散作用」も担っています。新しいオイルに頻繁に入れ替えるということは、エンジン内部を常に綺麗な洗浄液で洗っているのと同じことです。
メンテナンスノートを活用する
スマホのメモ帳でも、ガソリンスタンドのレシートの裏でも構いません。「〇〇年〇月〇日 12,345km オイル交換」と記録を残す習慣をつけましょう。タクトのオドメーターを見るたびに、「あと500kmで交換時期だな」と意識できるようになれば、あなたはもう立派なメンテナスマスターです。
しっかりとオイル管理されたタクトは、5万キロ、いや10万キロだって走れるポテンシャルを持っています。この記事が、あなたの愛車との長い付き合いの助けになれば、これほど嬉しいことはありません。さあ、次の休日は愛車への感謝を込めて、オイル交換をしてみませんか?
※本記事の情報は、一般的なAF75/AF79型タクトを想定したものです。車両の状態や使用環境により適切なメンテナンスは異なります。ご自身での作業に不安がある場合は、無理をせずお近くのHonda二輪車正規取扱店へご相談ください。
